第12話

「お邪魔しました!また来ます」


好青年っぽくママに挨拶する様は、昼間にわたしの理想を全否定していた人と同一人物には思えない。


私の青春ライフをバカにしたくせに、キラッキラな笑顔じゃない。



「じゃあーな、阿部。また月曜な」


「うん・・・あ、エコバックは?」


「ああ、そうだった忘れてた」



靴を履いてしまった冴島のかわりにシンク横に畳んであるそれを持って戻ればお母さんと冴島が何か話している風だった。



「あ、それさやっぱ置いてくわ。」


「ええー?なんで、持ってってよ」


「こんど俺うちに遊びに来る時それにお菓子詰めてきてよ」


「え?」


「——んな困った顔すんなや。なんもしねーし」



いやいや私が困ってるのはそこじゃなくて、『ママ』の前でそういう話するなってところだよ。



「バイバ~イ」

「う、うん」


わたしは動揺してて返事するのが精いっぱいなのに、学校で発揮されることのない社交性をふんだんに使ってママにまた来ますとか言って帰って行った。




「進展なしか」


「・・・べつに、進展も何も。そういうのじゃないもん」


「素直じゃないな」



だって、素直になったところで何があるっていうのさ。



「まあ、後悔のないように。時間やタイミングは戻ることはないからね」


離婚したお母さんが言うと妙に説得力があるよね。


「・・・・・・・」


何も言えなくなった私は、肩を叩かれてそんなことを思った高2の冬。



そもそもそんなチャンスなんてある訳ないよと心の中だけで悪態をついた。

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