第10話

「それさ、使いなよ」


「え、何言ってるの?」


「大丈夫、ちゃんと進学させる目途はついてるから。それでさ、パーっと憂さ晴らしにでも使って?」


「いやいや、そんなの・・・使えないよ」



多分自分にかける費用を削って作って来ただろうそのお金を、憂さ晴らしのように使う気になんてなれない。


「いいの、あんたがそれ使って楽しそうにしてくれるだけで、ママ嬉しいからさ」


「いや・・でもさ・・・」



二人で遠慮し合ってれば、冴島がもぞもぞと動き出した。


やだ、こいついるのに思いっきり濃い家庭の事情話してたわ。



「ん―…、あーーママ?」


目を擦りながら上半身を起こしてママに顔を向ける。


今の会話聞かれてたらめっちゃ恥ずかしいけど、聞こえちゃったかな?



ママは動じてないみたいで、普通に声かけしていた。


「おはよう、彩人くん。来てたのね?」


「はい」


お母さんに返事をして、自分が買ってきたみかんを私たちが食べてるのを確認したら、嬉しそうに寝ぼけ顔でにへらぁっと笑う。


その無邪気な顔に、愛しさが込み上げてくる。



「おれも、コタツミカンしたい」


「はいはい、どうぞ、私が買ったんじゃないけど」


「えへへ、すっげえうまそう」


「みかん食べたことない人みたいなテンションだね」


「こーゆーのいいじゃん。コタツって相手の顔見えるし」



こーゆーのって言われると、自分が褒められたように嬉しくなる。


綻んでしまいそうな顔を一生懸命に引き締めるけど、ママと目が合った。



嬉しそうに私の顔を注視してくるから、冴島にバレちゃうんじゃないかってくらい顔が赤くなってきそう。



ってか、変に焦ってるし、顔も赤いと思う。



「り、りんごもあったよねママ!カットして持ってくる!!」


「あっはは、うんうんあったね。じゃあお願いね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る