第9話

「ただいまー・・・あれ?彩人くん来てたんだ」


「うん、言ったじゃん、さっき」


「———ああ!それで土鍋?」


「うん」



ママ・・・また違う匂いがする。


習い事に行ってるらしいけど、詳しくは聞いたことがない。


女ばかりの空間に、少しだけ男性用のコロンの匂いがする。


その匂いは明らかに冴島のものじゃなく、少し年配の男の人がつけそうな匂い。


だから、少しだけ疑いたくなるんだ。


もしかしてママってさ、彼氏が出来たんじゃないかなって。



「楽しかった?習い事」


「うーん?———…うん、まあ――疲れたけどねぇ」


「———そう」



それよりもさぁと話を切り替えるママ。


このよそよそしい態度、いかにも怪しいけど、私は知らないふりを続ける。




「ねえ、修学旅行だけどさ・・・」


「うん」


「ごめん・・・」


「うん、いいよ。気にしてない」


「———そう?」


「うん。だってさ、バカげてるよね。行ってもさ値段に似合う経験できると思ってないし、きっと移動時間の方が長く感じるくらいヒマになると思うよ。だから、このまま欠席でいいよ」


「・・・ありがとう、ごめんねぇ。あ、でもね、・・・その旅行用にって積み立ててたものがあるの、これ」


目の前に出された通帳を見てみた。


それは3年前からの積み立てスタートになっていて毎月3000円ずつ入金されていた。


多分、普通国内の旅行だったら、私のバイトで稼いだ貯金を合わせれば十分に足りる金額のはずだ。

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