第12話

オーナーの作るカクテルを楽しみながら過ごしていると、落ち着いたらしい三浦さんが私たちのところに来てくれた。


「真穂なにしたの?」


「え?」


「あんな鬼の形相したオーナーなんて繭が絡まれたとき以来じゃないかな」


 なんて普通に言ってきたけど、突っ込みたいところいくつかあったよ?


「オーナーと繭ちゃんってそういう関係なの?」


「え、真穂知らなかった?」


 オーナーが「お前このタイミングで言うかな―」と呆れているが、三浦さんは悪びれることなく私の追加のお酒を作っている。


 繭ちゃんは私のいとこでここに出会わせてくれた人で、三浦さんの同級生、それと、オーナーの彼女らしい。


 オーナーは若く見えるけど多分30代後半で繭ちゃんは28歳だから、年の差カップルだ。


 落ち着いてる大人の2人の恋人らしいところを想像したら、思わず赤面した。


「うわ、真穂エッチな想像しただろ」


「もう!そこはスル―してよバカ!」


 こういうところが三浦さんには足りない大人の余裕だよ!と文句を言っていると、私の耳元に顔を近づけて「俺らだってエッチなことしてるのに」ってささやいた。


 ぽかーんとした顔で顔を離す三浦さんを見つめると、意地が悪いドSな顔で笑ってた。


「和希って結構子どもっぽいところ残ってるよな」


「どう意味っすか」


 俺わかんないっす。みたいな顔して答えてるけど、絶対分かってんだろうがと怒ってるオーナーを見る辺りわざとやってるみたい。


「そんなことより、俺が怒ってたのは真穂ちゃんでも和希でもなく、これ、こいつ」


 オーナーがそうやって指をさしたのは、カウンターに置かれた私のスマホ。


 もちろん今は画面は真っ黒で何も映っていないので、私はさっき見せた琢磨とのトークラインをもう一度開いて三浦さんに渡した。


 スマホを受け取り画面を見た三浦さんの手の中でもスマホがミシっと怖い音を上げたのでびびった。


「何こいつ、マジでふざけてんですけど」


「……和希、お前明日休んでいいよ」


「え」


 驚き過ぎて声を上げたのは三浦さんじゃなくて私だった。


 明日は土曜日で簡単に休めるような日じゃないのに、オーナーは意思を変えるつもりはないみたいで、決定事項のまま話を進める。


「真穂ちゃんの荷物運ぶの手伝ってやって。こんな奴、早急に切るのが一番いい。真穂ちゃんもいいよね?」


「え、あ……でも、行くところまだ決まってなくて」





「俺のところに来ればいいじゃん」




 何の躊躇いもなく三浦さんは言ってしまうんだ。


 驚いて固まる私に、三浦さんはトドメを指すようにもう一度言った。


「真穂、俺のとこにおいで」

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