第11話

RedMoonの近くのパーキングに車を止めて一緒にお店まで歩く。


「出勤してすぐは真穂のところに行けないと思うけど、落ち着いたら必ず話し聞きにいくから」


「……うん、ありがと。こんなに有能な三浦さんを独占してたら、他のお客様に怒られちゃうね」


「いいじゃん、もっと独占してよ」


 そうやって優しく笑うから、勘違いする女性が出てくるんですよ。

 

 私だって、錯覚しちゃうんだからね。


 お店の地下階段に続く手前で三浦さんと一旦別れ、私は階段を下りてRedMoonの扉を開く。


 今日は金曜日でいつもよりお客様が多くなる日。


 忙しいだろうと思って自分で席を探すつもりでいたら、すぐにオーナーが声をかけてくれて、人目を気にせず長くいれるカウンター席の奥に通してくれた。


「真穂ちゃん、昨日大丈夫だった?」


「え、あ…はい…」


 心配してくれたオーナーに返事の言葉が濁ってしまったのは、聞かれているのが『琢磨さんのこと』なのか、『三浦さんのこと』なのか戸惑ってしまったから。


「昨日、あんな飲み方して迷惑かけてしまい、すみませんでした」


 頭を下げて謝罪するがオーナーにすぐに止められ、顔を上げることになる。


「大丈夫だよ。ここは真穂ちゃんの逃げ場所だから、どんな飲み方したって泣いたって怒ったっていいんだよ」


「…ッ、ありがとうございます」


 RedMoonのスタッフは優しい人ばかりだ。


 オーナーが作ってくれたカクテルは甘酸っぱいべりーの味がした。


 そのまま私の接客についてくれるみたいで、オーナーたちのいる方に置いてある目線を合わせやすくするイスに腰掛け足を組み、薄暗い照明の中わたしと向き合った。


「今日、会社行ってみてどうだった?浮気したクズって同じ会社の先輩だよね」


「……最悪でした。すごく帰りたかったです」


「あほ。無理して笑うな。……これからどうするか、話はできてる?」


「ラインは合ったんですけど、一方的すぎて話しあうのは難しいかなと思ってます」


 そう私が現状を伝えた瞬間、オーナーの空気が一気に冷たくなった気がした。


 あの温厚で優しいオーナーがすっごく怒ってらっしゃる気がするのは気のせいですよね…!?


「真穂ちゃん、そのライン見てもいい?」


 笑っているはずのオーナーの眉間には大きな皺が出来ていて、これは完全に怒ってる。


 私は素直に琢磨とのライントークを開いてオーナーにスマホを渡すとミシッと恐ろしい音が聞こえてぎょっとオーナーを見ると、目線はもう他の人を探していた。


 すぐにお目当ての人物を見つけれたみたいで、接客中の三浦さんを邪魔しないように合図を送って、私にスマホを返してくれた。


 とりあえず、スマホは壊れることなく無事に帰って来た。


 よかった…。

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