第9話
怖いと思ってたバイクも全然怖くなくて、余裕を持って会社の前まで来れたことに感謝しかなかった。
「三浦さんありがとう!時間に余裕もあって助かったよ」
三浦さんの腰から腕を離し、三浦さんの腕を掴んで、高さのあるバイクから地面に降りた。
被っていたヘルメットを三浦さんに渡すと、暗い視界の中でも私を見つめる三浦さんの目線に気付いた。
顔を隠してもイケメンであることまで隠しきれないみたいで、周りの女性社員の目線を集め出していた。
三浦さんはそんなことを気にする様子もなく「帰りも迎えにくるから持ってろ」と私にヘルメットを返してきた。
「え…、でも、三浦さん仕事あるのに…」
「じゃあ真穂は今日どこに帰んの?」
「あ、」
そうだ、まだ琢磨と話ができていない今、今度のことがどうなるのか全然わかんない状況だった。
「正直、今の状況でそんなクソ野郎のところに真穂を返すつもりないから、必ず迎えにくる。まってて」
「……うん、わかった。ありがと三浦さん、18時には帰れると思うから、頼みます」
三浦さんに軽く頭を下げると、優しい手つきで私の頭を撫でて、「がんばれよ」と言葉を残して去っていった。
残された私は周りの興味津々といった視線を受け取らないように顔を下に向けて会社のビルに入っていった。
やっと落ち着いて鞄の中からスマホを探して取り出すと、かろうじて充電が残っていて、急いでポータブル充電器と繋いで、琢磨からの連絡が入っていないか確認した。
着信は1件も入っていなかった。
次にラインを開いて確認すると、琢磨さんからの通知が入っていた。
昨日、話なら明日聞くからって言ってた。
だから、急な別れ話とかじゃないよね?
嘘でもなんでも信じるから、浮気の言いわけの連絡だよね?
なんて、昨日のあんなことがあっても、優しい琢磨さんを忘れられずに期待したバカな私は簡単にどん底まで落とされた。
琢磨さんからのラインは、謝罪も言いわけもなく、私と琢磨さんの関係を終わらせる言葉だった。
『別れてほしい。彼女と同棲したいから早く荷物を取りに来て、出ていってほしいんだけど、いつ頃出ていける?』
今までも琢磨さんとは思えない文面に、顔面を殴られたように視界が歪んだ。
こんな一瞬で、初めての彼氏も帰る場所もなくなるの?
恋愛初心者の私には、これを乗り越える自信が、ない…。
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