第11話

弓道場内の部員が

ひとり、ふたり

と徐々に稽古を終わらせて

帰り支度を始めていた


彼は、相変わらず

彼女と何から話せばいいのか

分からないまま



とりあえず

他の部員全員がいなくなるのを

待っていた


稽古が終わって

30分くらい経った頃


「まずは、どうする?

まずは実際に射ってみる?」


彼女が彼に近づきながら

そう話しかける


ふわりとした

香りを漂わせる彼女を

近くに感じながら

彼は彼女を抱きしめそうになっていた



「それとも……」


そう言いながら、彼女は

言い淀んでいる



それとも……って

この子、意外と小悪魔系なのかな

こうやって毎回、一緒に練習しよう

なんて言いながら

男をその気にさせるんだろうか?


「ねぇ……」


上目遣いの

潤んだ目で見られると

何も彼は言えなくなりそうで



静まれ

俺の心臓

落ち着け


不意に彼女の手が

彼の頬に触れる



「もしかしたら、まだしらを切るつもり?」


小首を傾げながら

彼女はそう言う



え?

しらを切るって……



もしかしたら

彼女は

既に……

俺の正体に気づいてるのか?

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