第17話

会計を済ませて、店を出た。


腕時計の表示は20時だった。

このまま家に帰るには早いけれど…


「とても、美味しかったです。

ご馳走様でした!」


吉田さんは、そう言いながら笑顔を見せた。


「じゃあ、また食事に誘います」


「え?」


「とりあえず、親睦会ということで」


「ほかの社員も出勤してきたら」


「そうですね」


コロナ禍だから

全員がそろう日は、なかなか無いけれど…


という言葉は心の中でそっと

思っていた。


最寄りの駅まで

二人で歩きながら

僕の心は揺れ動いていた。


いくら初対面だからと言っても

好みの女の人を前にしてるのに

このまま普通に、帰途に着くのもなぁ…


だからと言って

送り狼になれる立場じゃないのも

分かっている…。


社長なのに

いきなり初日に社員に手を出すのは

さすがにヤバいだろう。


そんなことは

絶対しないけれど…


「このあと、真っ直ぐ帰るのも、なんだか

寂しいですね」


吉田さんの口から、意外な言葉が出た。


「うわぁ、なんか嬉しいな。僕もそう思ってたんです」


「東京に来る前は、ずっと実家住まいだったので

一人暮らしに慣れないんですよね」


…そっちか…。

一緒に居たいとか、そういうパターンではないんだな…


「ホームシックですか?」


「そんな歳じゃないんですけどね。

でも、なんて言うのかなぁ…人と一緒に食事した後とか

会った後って、別れ際は寂しくなると言うか…」


これは、もう一軒くらい誘ってもいいのかな…


僕の心臓の鼓動は、早くなっていた。

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