第12話

「悪い、黒板のあの字がどうしても見えなくて」


「え、どこですか?」


「話すより、早いから、ちょっと、ノート見せて」



そう言って、私のほうに近づいてきました




知り合って最大級の大接近でした


心臓が爆発するかと思ったのは、言うまでもありません



私のノートをじーっと見ている先輩



ち、近いんですけど・・・



緊張しすぎて、呼吸もままなりませんでした



「サンキュ」


ノートを確認して、すぐにペンを走らせる先輩



先輩にとっては、なんでもないことだとは分かっていても


先輩に恋をしている私には、特別なんです



その声も


その腕も


その文字ですら




特別なものなのに


先輩にとっての私は、同じ大学の同じサークルに所属する一人の学生にすぎないんだ



そう思うと、こうやって、何かをきっかけにどんどん好きになっていく自分の気持ちが

恨めしくも思えました



近づけば近づくほど遠く感じる先輩なのに



それでも私の恋心は止まることがありませんでした

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