第14話
部活をやっていない私には、全速力で高校まで行くのは少々きつい。
なんとか体育館に着いたが、第一クォーターは始まっているようだった。
ピッ!と笛が鳴る。
体育館の空いている扉からのぞくと、黒いユニフォームの玲唯がファウルをとられていた。
「玲唯!お前どうしたんだよ」
親友でキャプテンの子が玲唯を叱責する。
思うように力が出ない玲唯は歯痒そうな顔をした。
「わり…」
額の汗をリストバンドで拭う。
その表情は険しく、呼吸も荒かった。
ビーっと笛が鳴り、うちの高校がタイムをとった。
エースに近い玲唯の調子が出ないことをみなが心配しているようだった。
たまらず、私はかけだした。
「玲唯!」
「楓?」
バサっと玲唯の方にタオルを投げた。
幸いにも、玲唯が上手に体勢を変え、キャッチした。
「これ…」
「忘れんな、バカ!」
「こら!試合中に観客の人はギャラリーか下の観客席で応援しなさい」
そう言って審判に怒られ、役目を終えた私は、渋々この会場を後にしようとした。
「楓!」
振り返ると、玲唯が満面の笑みで笑っていた。
「サンキューな。あと、そこで見てろよ」
そう言って、私にグーの手を差し出してきた。
何かが、音を立てた。
それは、心臓あたりの音で、じんわりと暖かくなるような、そんな感じがした。
空いている観客席に座り、玲唯の試合を見守った。
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