第13話

玲唯の恋に気付くのは簡単だった。


高校2年生の夏。


いや、もう夏も過ぎたのに、暑い秋だったと思う。


部活の大会で玲唯がいつも欠かさないお守りのように持っているタオルを忘れたことだった。


それは、私が小学生の頃にプレゼントしたもので、玲唯は【これを持っていると勝てる】と信じて、ボロボロになってももち続けていたのだ。


正直、嬉しかった。


応援に行けない時も、玲唯のそばにいられるような気がした。


塾で応援に行けないと分かった日。


私が塾に行こうとするとお母さんが慌てたようにやってきた。


「楓!あんた、今時間ある?玲唯くんのお母さんから連絡きて、玲唯くんがタオル忘れたって騒いでるらしくて…もう試合まで時間ないって」


「え…」


「会場はウチみたいよ!玲唯くんの家族は仕事で向かえないからって…!楓、あんた届けてくれない!?」


うちの家族はみんな玲唯のことが大好きだ。


だから、協力するのは当然、と思っていた。


もちろん、私も。


「分かった。お母さん、塾に遅れるって連絡しといて」


「わ、分かった。あっでも、タオルってどこにー」


お母さんが言い切る前に、私は2階に走った。


玲唯のことだ。


もしかしたらー。


そう思ってベランダを飛び越える。


ほぼ隣接している状態のベランダには簡単に行き来できる。


そして予想通り、玲唯の探している水色のタオルはベッドの上にあった。


ーこないだ窓開けて寝て怒られたよー


笑いながらそう言う玲唯を何度も怒った。


けど、今はー。


そう思って窓に手をかけると、ガラリと空いた。


ー不用心め…!


後で怒らなきゃと思ったが、今はそれどころではない。


「どこで見つけたの!?」と驚くお母さんの横をダッシュで通り過ぎ、ランニングシューズを履いて走った。


ほぼすっぴんで部屋着に近いスウェットだけど、


ー玲唯に、勝って笑って欲しいからー


その想いを胸に、タオルを握りしめ、高校に向けて走った。

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