第十八章

 「軽度の鬱病ですね」

 「鬱病……」

 心療内科に受診したらそう言われた。

 「ええ、環境が変わって仕事始めてしばらくした頃に理想と現実と日々のストレスで疲弊してくる頃に良く鬱病になる方が多いんですよ。悪いことじゃありません。風邪と同じでゆっくり治していきましょう」

 「治るんですか?」

 「もちろん、治りますよ」

 その先生は優しそうにそう言った。

 「勘違いされている方が多いのですが鬱病とは脳の一時的な故障で、セロトニンという幸福物質がうまく分泌されずに抑うつ状態が続くことによる機能障害のようなものです。日光をよく浴び、規則的な生活と適度な睡眠で初期症状は良くなりますが、放置してその状態が続くと自然治癒が難しくなったりします。ですが、薬でサポートすることで治る病なんです。決してご自身の性格や心の弱さではありませんので、堂々と治療に向き合ってください」

 昨今の医療機関は優しい。

 日本人がうつ病になりやすい民族であるというのは昔から言われている。

 そして、なかなかうつ病の治療を受けない民族だという。それは昔は精神病なんて言うものは怠け者病と呼ばれていて、患者自身もそう思い込んでしまいなかなか適切な治療にならず、結果、自殺に繋がってしまう。

 年間百万人の自殺者が出ている。

 この国は鬱病と戦争している。

 私は仕事を休職した。幸いなことに旅行願望は変わらずあって、秋穂とクロが行けるように旅先を選ぶ気力はあった。

 SNSで旅先を選んで、じゃらんや口コミ見て決めて。そうしたちょっとした幸福が私を元気にしてきた。たまにワンオクを聞いて元気貰って、近所迷惑にならないようヘッドフォン着けて、車では爆音で聞いてる。

 車のときは市街地抜けて峠で聞いてたり、意味もなく高速乗って、もしくは縦貫(無料の道路。地域によっては有料で高速に近い速度で走れる)に乗ったりしている。


 「朋ちゃん元気になったね」

 「うん! 最近じゃ出勤できるようになったよ!」

 「そう良かったね」

 秋穂がホッとしたように、でも何処か心配そうにしている。

 「秋穂?」

 「朋ちゃんが元気になったのは嬉しいよ。でも、本当のこと言って。黒がいるだけじゃ寂しいんだよね? 本当は子供欲しいんでしょ」

 秋穂は寂しそうに言う。

 「だ、だったら私、朋美から離れるから。む、無理しなくっていいから。朋美の重荷になりたくないし、そうなるくらいなら―――っん」

 泣きそうになるのを堪えながら言う秋穂の唇を塞ぐようにキスをした。

 「黙れよ」

 そう言って私は秋穂を押し倒した。

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