第17話

秘書の部屋を出ると、主人は明るい声を出した。

「とにかく、生きてることははっきりしたんだから、よかったじゃないか」

「そうですね!うん、そうだよ!まずは会うことが大事だ」

 単純なタクは早くも気を取り直してタツの肩をたたく。

「そうだな、テッドさん、すみませんが外科につきあってもらえますか」

「もちろんだ、早速行こう」

 広大な敷地に並ぶ似たような白い建物を横目に、三人は東に足をすすめた。


「さて、ここかな。外科部門、うんうん、ここだ」

「ずいぶん大きいんですね。一つ一つの建物」

「そりゃあ、この国は病院でできてるようなもんだもの。世界中の医学の知恵が集まってるんだからさ。でかいよ、どこも。外科も後発だったけど、大きくなりすぎてそろそろ分割されるんじゃないかって言われてるくらいだし」

「へえー、そうなんですか。外科って、骨折を治したりするやつでしょう?」

「もちろんそれもやるけど、それだけじゃないさ。病気に対してだって、手術で治したりとか」

「えっ手術って、切ることでしょう?」

「そうさ、なんだあんたら、ずいぶん何も知らないんだな。ダリアの方じゃ、まだ手術なんてやられてないのかい?」

「いや、できものを取ったりとか、戦争でだめになった手足を切り落とすなんてことはやってますけど…」

「そんな手荒いものだけじゃないさ。ここでは腹に悪いものができたら切って治したりとか、そういうことも随分やられてるんだよ」

「えー!じゃあユリは人の腹を切ったりとかしてるってことですか」

「なんかそういう言い方をされたら変な感じするけど、まあそうなんだろな」

 腰が引けている二人を見て、テッドが苦笑する。

「まあ、別に剣を持って切ってるわけじゃないんだからさ。メスっていう、小さいナイフみたいなのを使うんだよ。実は俺も、以前腹に悪いのができてね、ここで切ってもらったことがあるんだ」

「へえー、すごいですね。さぞ痛いんでしょうね」

 タツが言うと、テッドは得意そうに胸を張った。

「いやあ、麻酔っていうのを使うんだよ。麻痺させるっていうか、痛みを感じさせなくしたり、眠らせたりしてさ」

「うわ…なんか怖くなってきた」

「なに、大丈夫だよ。そりゃ手術されるときは怖かったけど、慣れたらどうってことない」

 テッドは二人の肩を叩いて入口をくぐった。タツとタクの中では、無邪気に遊んでいたユリの姿と、今聞いた大変そうな手術をする医者のイメージがどうしても結びつかない。

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