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第13話

マンションに真っ直ぐ帰って来たものの部屋の前で考え込んでしまう。


 何にも言わずにドアを開けて入るのか、インターフォンを押したほうがいいのか。


 今まで同じ場所、人間のもとに戻ることなど経験がほぼない。ホテルを出たらそこで終わりの関係だ。


 悩んだ末にインターフォンを押すとすぐに声が聞こえる。



『はい?』


「買い物してきたんだけど」


『あぁ、鍵開いてるよ』



 不用心だと思いながら玄関のドアを開けると、廊下の先にあるダイニングから実が顔を出して出迎えてくれた。



「おかえり!」


「……ただいま?」



 言いなれない言葉に調子が狂う。だが、実のペースに乗っては駄目だ。


 部屋に入るなり俺はコンビニ袋を実に渡し、その目をジッと見つめる。



「なに? こんなに買えた?」


「レジの女がおまけしてくれた……」



 ジッと見つめたまま意識を集中すると実の目が険しいものに変わる。


――あれ? おかしいな。


 予想だにしない反応。しかめっ面で鼻をスンスンさせて俺の匂いを嗅ぐ。

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