名前を呼んだ

第15話

今日も朝から窓を開けてまた烏がやってこないかと期待を膨らませて空を眺める。


 昨日は少し話しすぎてしまったので、もう私にうんざりして来ないかも知れないと半分は諦めている。


 だが学校にも行けず何もない一日を過ごす私には烏の事を考えているだけで気分が楽しくなるのだ。


 まだ少し冷たい風を感じ椅子の背に掛けたカーディガンを取って袖を通していると、外から羽音と共に声が聞こえた気がした。



『こ、ガァーコ・ハ・ル』



 誰かに名前を呼ばれた気がしたが空耳だろうと気にせずカーディガンの袖に腕を通していると大きな声でしっかりと呼ばれハッとして窓の外を見る。



『コ・ハ・ル』



 今度こそ空耳でもなくベランダの手摺りに留まっている烏から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


――間違いなくこの烏が小陽って私の名前を呼んだ。



「カラスさん! いま私の名前呼んでくれたよね?」



 興奮気味に自分の名前を呼んだことを、首を傾げてこちらを見ている烏に尋ねると大きな嘴を開く。



『コハル! コハル!』



 翼を少し開きながら得意そうに私の名前を連呼するので、思わず笑みが零れて胸が詰まるような感動を覚える。


 あまりの嬉しさに烏を抱きしめたい衝動にかられるが、なんとか我慢して感嘆の声をあげた。

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