二羽

天狗の住む山

第12話

小陽と名乗った女の家から二つ山を越え三つ目の山の頂上に生える二本の古い大木の間を抜けると深い霧が立ち込め、そこをひたすら真っ直ぐに飛ぶと天狗の山が現れる。


 普通の烏や人間は入れない神聖な山で師匠の下で修行をしながら共に暮らしている。


 帰るなり人の言葉を必死に練習していると、予想通りにからかう声が聞こえてきた。



『こ、がぁーーアァァーー』


「なあ、烏。そりゃなんて芸だい?」



 俺の練習の邪魔をするのは長い黒髪を一つに束ねて、だらしなく着物を着て寝転がり終始酒を飲んでぐうたらしている俺の師匠、烏天狗の右京だ。


 烏が烏天狗になる為には力ある烏天狗の下で修行しなければならない決まりがある。


 修行といってもほとんどが右京の使い走りばかりで大したことは何一つしたことがないのだが。



「邪魔すんな!」


「冷たいな……そんなに熱心に人間の言葉を練習してたら気になるじゃないか」



 暇を持て余している右京は意地の悪い笑を浮かべ、いつだって俺をどうからかおうか考えているんだ。



「なんだっていいだろ!」


「師匠に向かって酷い言い方だねぇ。この間、大天狗から烏に甘いんじゃないかって小言をもらったんだよ」



 こんな右京だが烏天狗の中では特に優秀と烏や烏天狗の間では有名人なのだ。

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