第10話

「また会いに来てくれてありがとう。凄く嬉しい……」



 一人ぼっちで過ごすことが多い今の私にとって、たとえ会話する言葉がなくても私の存在を知ってもらえることだけでも嬉しい。


 逃げる気配もなく手摺にジッと留まってこちらを見ている烏に独り言のように話しはじめる。


 話し出すと日頃の鬱憤を晴らすように最近読んだ本のことテレビドラマのこと人に話しても刺激もなにもないつまらない日常のことを必死に喋っていた。


 烏が言葉を分かっているのか不明だが時折、首を傾げたり相槌を打つような仕草を見せる。


 調子づいた私は心臓の病気のことや、母親には決して言えないような愚痴めいた話しまでしていた。


 そのうちに自分で思っている以上に心のなかには不満が蓄積されていることに気付く。


 話し相手は殆ど母親だけなのだが、最近はいつも苛立ったようにピリピリしている母親に気軽に話しかけることを躊躇してしまう。


 ましてや迷惑をかけて世話までしてもらっている母親に不満など言えるはずもない。


 喉の乾きに咳き込み、やっと我に返ると烏の後ろにオレンジ色の空が広がりはじめていること気付いて驚愕する。

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