第15話
「何があったんだよ。」と祥也は慌てて結希の肩を両手で掴み、揺らした。
「幸…私の事、もう覚えててくれなかったみたい。」
あの日の事を、結希が話し出す。
結希は祥也に背を向け、零れる涙を両手で拭う。
泣きたくなんてなかった。
「覚えて…なかったって…?」と祥也の声も曇る。
「最初、目が合った時も、会場の外で目が合った時も、私だって分かったはずなのに、顔色一つ変えず、ファンへ目を向けて云ったの。他のファンの子に…笑ってた。」
「せれは、他のファンもいるから、結希だけ特別な扱いは出来なかっただけだって。初めて自分のCDを買ってくれた人の事、忘れる訳ないよ。覚えてるってば!」
祥也に強く言われ、「だけど、もういいんだってば。」と振り返った結希の目に、「どうしたいんだよ。」と祥也がため息混じりに言う。
少しの沈黙の後、「ただのファンなんだよ。もう。」と結希は小さく答えを出した。
「ただのファン?」
結希は頷き、ポスターを丸めた。
「ただのファンでいいんだよ。デビューした幸にとって私はもうファンの中の1人なんだと思うんだ。私、これからは幸の1番のファンでいればいいんだと思う。」と結希は言い、「ごめんね。やっぱり、ポスターもらってくれる?」と祥也に笑って見せる。
そんな結希の健気(けなげ)な姿に、祥也は思わず、結希の体を引き寄せ、強く抱き締めた。
「祥也…。」
結希の手からポスターが落ち、結希は突然の事に呆然としている。
「俺、ずっとお前のことが好きだった。俺がお前を守るから、アイツみたいに結希を悲しませたりしないから、俺と付き合えよ。」
突然の告白だった。
「祥也」と言おうとする結希に、「変事はすぐじゃなくていい。ちゃんと考えてから変事して欲しいし。」と祥也は結希の体を離した。
「分かった。」
結希は戸惑う手でポスターを拾い、祥也と別れた。
祥也からの突然の告白に、結希は幸の事を考えていた。
幸を想う自分の気持ちを一つ一つ確かめるかのように。
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