第13話

「それでは、歌行きます。スタート。」の声にスタジオに、幸の奏でるギターの音と幸の声が優しく響き渡った。


【君と初めて逢った星の下、僕が君を守って行くから、僕だけの君でいて】


その歌詞に、結希は幸と出逢った日の夜を重ねていた。


スタジオに小さなため息が溢れ、ギターの音が余韻を残し鳴りやみ、幸の歌が終わった。


「OKです。」とスタッフの声に、「キャー」とファンが一勢に叫ぶ。

「ありがとうございました。」

そう言い、幸がスタジオを出ようと歩き出した時、不意に結希と目が合った。


『幸。』と心の中で幸の名前を強く大きく呼んだ。

笑ってくれると思ったのに。


次の瞬間…。

幸はスッと結希から目を逸らし、黄色い声の中、スタジオを出て行った。

まるで、結希の事を忘れてたしまったかのように。

それならまだいい。

それどころか、結希とは1度も会った事がないかのように、幸は結希の視線から消え去ってしまった。


スタジオの外では、多くのファンが楽屋通用口の前に並び、出演者の出待ちをしていた。

結希は、そんなファンの姿を尻目に、帰り道へと歩き始めた。


その時、「幸君!」とファンの1人が幸の姿に声を上げた。

振り返ると、ファンの列で順番に、ファンレターやプレゼントを受け取っている幸の姿が見えた。


そしてポツンと列から離れ、後ろの方で立っている結希の姿に幸は気付き見つめた。


『幸…。気付いてるの?私だってこと…。』

結希は心で幸に問い掛けた。


けれど、またも幸はその視線を目の前のファンに写し、そして笑った。

「バイバイ。」と小さく結希は幸に別れを告げ、自分の帰るべき場所へと帰った。


泣く事も忘れ、結希は家のドアを開け、1人目を閉じた。

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