第11話

デビューから1ヶ月の間に、幸は雑誌にも多く載るようになっていた。


「やっぱデビューすると違うな。注目の的って感じ。」

放課後、雑誌を公園で広げ、祥也が呟くように言う。

「路上ライブの時も人は多かったのか?」

祥也の質問に、「ううん。多いどころか、1人もいなかった。私だけだったのに。」と結希はすねた様に祥也の見ている雑誌を閉じた。

「まぁ、成功して良かったじゃん。」

結希は小さく「そだね。」と微笑んだ。


それからも幸は雑誌に多く載り、遂に人気歌番組に出演する事が決まり、ますます結希とは遠く離れた世界へと足を進めて行くようだった。


「結希、幸の歌、もう1度、生で聞きたくない?」

放課後、公園に呼び出し、祥也が結希に聞いた。

「別に。それにもう会えないよ。もう有名人になっちゃってるし。」

完全に機嫌を悪くした結希に、「はい。コレ。残念ながら1枚だけど。」と祥也が1枚のハガキを結希の膝の上に置いた。


「何?コレ…?」

見た事の無いハガキには、結希の名前が書かれている。


そのハガキの裏には【MusicTops・観覧当選しました】と大きく書かれ、今度、幸が出演するライブ式の歌番組“MusicTops”の観覧日時が細かく記入されていた。


「何これ?!」と結希が慌て驚いた表情で祥也を見ると、「当選すると思わずに俺が観覧者の名前を結希にして出してみたんだ。そしたら見事に当たっちゃって。だから、行って来いよ。」と祥也はハガキが当選した事を話した。


結希はハガキを胸に「ありがとう。」と嬉しそうに笑った。

その笑顔に「うん。」と祥也も頷き笑っている。


『また幸に逢えるんだ。』

結希は幸の事を想い、ハガキを見つめた。

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