第62話

幸福の鳥居を潜ると一段と広い所に出た。

正面左手奥には、簡易ではないしっかりした授与所がある。

そして、正面には1m近い大きな岩が置かれている。

周囲は、木製の柵が囲み岩自身には祭られていると分かる白い布が巻かれていた。

『神恵岩』と看板が置かれている。

俺達は、そのままその『神恵岩』へ近づく。


「へぇ、これが火打石!」

「秋葉山で産出された岩なんだ、凄いおっきいね」


先程の切り火同様に、火打金を打ち付けて『除け、清め、防火』などの願掛けをするらしい。

俺達は、お賽銭をしてからそれぞれ火打金を手に取ってやってみる事にする。

火打金は、賽銭箱の隣に置かれていた。

神恵岩は、表面が茶色で先程の切り火の時の真っ白な石と同一には見えなかった。

カツカツカツとまたも3回火打金を打ち付ける。

その度に、火花が散るのが見えた。

緋音もまた同じように3回火打金を打ち付けていた。

それも、同じタイミングで。


「あはは、揃ったね」


緋音が嬉しそうに微笑みながら俺を見ていた。

ドックンと心臓が高鳴る。

俺は、どうやら彼女のこの笑顔が好きなようだ。

緋音の笑顔が、俺の中の何かを変えてくれる…癒してくれる。

そんな気がしている。

俺にとって、緋音は心が落ち着く場所。


「じゃあ、慎くん。本殿に向かおう」

「ああ」


俺達は、火打金を返却して鳥居から右側奥へと向かう。


「でっかい絵馬」


俺は、そう呟いた。

ジュビロ磐田のマスコットが描かれたとても大きな絵馬が神楽殿に飾られている。


「あー、確かジュビロ磐田の選手たちが参拝や奉仕活動を行ってるらしいよ」

「ああ、だもんで此処にジュビロ磐田の絵馬が奉納されてるのか」


縁深い物があって奉納されているもののようだ。

俺達は、神楽殿を眺めながらその前方にある階段を上っていく。

階段の先には、大きな本殿があった。

ガラス窓で、本殿内を見ることができる。

ちょうど、中では祝詞があげられているようだ。

俺達は、静かに賽銭箱へ近づき賽銭を済ませると2礼2拍手をする。


『お久し振りです。20数年ぶりに帰ってきました。

緋音と一緒になることになりました。

…健やかに生活できますように』


俺は、心の中で祈り…1礼をして離れた。

緋音は、まだ手を合わせて祈っている。

俺は、本殿の脇にある展望台へ足を向ける。

展望台からは、景色が…うまく見えなかった。

地上は、真っ白な霧に覆われている。


「慎くん、お待たせ…わぁ、全然下見えないね」

「天狗の皿投げしてた時はここまでじゃないと思ったんだけど」


ほんの数分前と景色が変わっている。

もしかすると、帰り道は視界が悪くなるかもしれない。

帰りも慎重に帰ろう。

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