13 親愛(敬愛)なる我が主

 ◇


「リーシャ様。おはようござ───……お目覚めでしたか」

「あらリジー、おはよう。見て分かると思うけどちょっと出かけてくるわ。明日の婚姻の儀には間に合うからそれまで何とかわたしの不在を誤魔化しておいて」

「お仕事ですか?」

「うん。皇帝陛下に急ぎで頼まれたの。本当は長期のお仕事だったんだけど、婚姻の儀があるから頑張って一日で終わらせて来ますって言っておいた」


 私が心の底から敬愛する主、リーシャ様はこの国で一番と言っても過言ではない重鎮です。古くから続くこのウェルロード帝国には五つの名門家があって皇家はその忠実な五家に支えられています。


 その名門五家はまとめてロードと呼ばれますが、どの家がそれに該当するかは本当に一部の者しか知りません。その五家の一枠がリーシャ様の家系です。ロードと言うのは血筋ですから、例え没落しても新たな爵位を賜ることになります。


 とにかく、そんな家に産まれたリーシャ様ですが奥様こと前フランクスのご当主様が亡くなられて、リーシャ様の血筋のロードはこの方おひとりのみとなりました。

 ロードの中でも序列一位だそうですから、当然仕事だって多くなります。ですが歴代一の実力者というのは伊達ではありません。長期のお仕事を一日で終わらせて来ると言えるのはきっとリーシャ様くらいのものでしょう。


「無理はしないでくださいね」

「もちろん。わたしは別に仕事人間ってわけではないし、今回はあの子に手伝ってもらうつもり」

「あの子は有能ですよねえ……リーシャ様が手懐けたと言うだけで、元は普通のインコですのに」


 リーシャ様の特殊能力のひとつ。これは副産物のようなものですが、動物と会話をすることが出来ます。会話と言ってもリーシャ様は普通に話し、インコの方も鳴き声ですがお互いに理解できるそうなのです。なんとも不思議ですけで、それが特殊能力と言うものですからね。


 使役獣、伝書鳩のようなものでしょうか?人間だと困難な仕事でも動物だと逆にやりやすい、などという仕事が多いですからリーシャ様たちの血筋の家系の方にとっては便利な能力と言えるかもしれません。傍から見れば変人に見えなくもないですけど。


「それでは、行ってくるわね。もしわたしより先に公爵様が帰ってきても部屋で寝ているから絶対に入ってくるなと言っておいて」

「はい。いってらっしゃいませ。どうかご無事で」


 私のご無事で、と言う言葉には微笑むだけで何も言わず、そのまま一瞬で消えて行きました。


 リーシャ様はいつ命を落とされるか分かりません。ロードの中でも恐らく一番危険なお仕事ですから。そのため、ご無事でと言う言葉に返事が返ってきたことはただの一度もありません。


 どうか、どうかご無事で帰られますよう、私はお祈りすることしか出来ないのです。

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