第7話 中学時代の、看過しえないパワハラ
整形外科医の息子正五郎が執拗なパワハラが原因で亡くなってしまったことから、パワハラという言葉には必要以上に敏感になっているのか、息子が亡くなる以前はさほど意識に上らなかった出来事も、最近では鮮明に脳裏に蘇ってくる。例えば陵南中学3年4組での朝のホームルームの一コマもそうである。公立高校の入試が近づいた、二月に入ってまだ間のない上旬の日であったが、教室へ入って来た担任のU先生が教卓前からいきなり、最前列から二列目に座るRさんに、
「R、お前どこ受けるねん?」
脈絡なしに突然、問いかけたのだ。
「はい、泉大津高校を受けたいと思います」
Rさんの答えは、本当に泉大津高校へ行きたいのだなと、私にまで伝わってくる弾んだ声の響きであった。が、担任の返事はデリカシーのかけらもない、非情なものだった。
「お前、寝とぼけてんちゃうか」
情け容赦ない回答に、Rさんは声を上げて泣き出すが、しばらくして長いすすり泣きに変わっても、クラスメートたちはなすすべがなく沈黙から抜け出せないでいた。担任のU先生というのは本職が教師なのか住職なのか、よく分からない先生で、国語が担当であったが蜻蛉日記(かげろうにっき)を「トンボ日記」と読ませる人であった。他にも私が高校へ入って恥をかいたのは、高野聖(こうやひじり)という泉鏡花の作品を、【たかのせい】との読み方で覚えさせられたことだった。高校で作品名をあげさせられ、【たかのせい】と答えてクラスメートたちに大笑いされてしまったのだった。
「南埜君、U先生のとこへ行って、Rさんに謝るよう言ってや」
学級委員をしていたので、一部女子の抗議に押され、私は職員室へ行ってU先生にRさんへの謝罪を求めるも、
「エッ! そんなこと言うたか」
完全にとぼけられ、予期していたことだが、役目を果たせずすごすごと教室へ帰ると、私は女子たちの険しい視線にさらされてしまった。
父宏・筆者純一・息子正五郎の三代にわたる、医療とパワハラ事件顛末記(整形外科医南埜正五郎追悼作品) 南埜純一 @jun1southfield
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