第9話 不穏の兆し
数日後、ギルドに顔を出すとスタンピードという単語が多く聞こえてくる。──ギルマスが掲示板に大きく貼り出し、受付が説明をした一枚の紙。ギルド内は騒がしくなっていた
この街を捨てて逃げるという声もあれば、苦楽をともにした仲間とこの街を捨てれないという声もある。けれど大半は、「スタンピードを食い止めろ」「森を解放しろ」という声ばかりだった
「やあヒロト、浮かない顔だね」
「そういうレオンこそ…」
どこか重苦しい空気が漂う僕ら。その空気感をぶち壊したのはアルラーだった
「辛気臭いわね。男なら堂々と胸張りなさいよ!うじうじしてたって、現実は変わらないのよ!」
そう言い放つと、アルラーは颯爽と受付に向かっていった…また文句を言うのだろうか…
「……ハハハ、まあアルラーの言う通りか。立ち止まってたって仕方ない。切り替えていこう」
レオンは自分の頬を軽くペチペチ叩きながら、気合を入れていた
「森が再び解放されるまで、周囲の草原を調査しよう。現状把握が先だ。食料は最低2週間分、できればそれ以上準備しておこう」
「でも、調査って言っても……モンスターの異常行動くらいしか分からないんじゃ?」
「いや、それだけじゃない。特殊個体が現れているかもしれない」
特殊個体。
通常のモンスターと違い知能が高く、全個体が魔法を扱える化け物。多くは人に敵対するが、ごく稀に友好的な個体もいるという。ドラゴンはほとんどがネームドモンスターとして登録されている
「特殊個体かあ…僕たちでも狩れる?」
「無理だ。正面から戦えば、こちらが持たない。僕らのパーティじゃ、運が良くて誰か一人の犠牲で済むレベルだ」
その言葉に、全身がゾクリとした
それほどの化け物が現れる可能性が高いのがスタンピードという災害…恐ろしすぎるあまり、僕の体は無意識のうちに震えていた
「…でも、心配しすぎることはないさ。特殊個体はそう簡単には出てこない。出るとしたら、魔力の濃い土地……いわば特異点のような場所が多いからな」
そう言って腰を上げたその時――ギルドの扉(西部劇に出てくるような観音開きのドア)が勢いよく開き、一人の男が肩で息をしながら
「ギルドマスターを……っ! 今すぐ呼んでくれぇ……!」
と叫び、気絶したのかその場に倒れてしまった
「…あの男、確かAクラスの…」「ひでえケガだな…」
周囲がざわつくなか、ギルドマスターが階段を駆け下りてきた
「大丈夫か!…おい、担架持って来い!すぐに!」
呼びかけに即座に応じ、冒険者たちが担架を持ってくると、男はすぐに奥の部屋へと運ばれていった
「な、なんかヤバそうな雰囲気じゃない……? 草原の調査、やめた方が……」
「……確かに嫌な予感はする。けど、危険な場所に足を踏み入れるのが、冒険者ってもんだろ」
そういったレオンの体は、少し震えていた。やっぱりレオンも怖いんだ……と、ほんの少し安心していたその時、受付の女性が口を開いた
「ギルドマスターからの伝言です。『森の立ち入り禁止を解除し、出来る限りモンスターを討伐せよ』とのことです。討伐部位の提出は不要。我々が支給するカードに、討伐モンスターと数が自動で記録されます」
そう言って大量のカードを取り出し、次々と冒険者たちに配っていく
カードを受け取った者から、我先にとギルドを飛び出していった
アルラーが僕ら分のカードを持ってくると
「聞いたでしょ。食料を確保したらすぐに出発よ!」
「……ああ。急ごう」
そう言ってハンスを呼び、僕たちは森へ向かう準備を始めた
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担架で運ばれた少し後、男が目を覚ました
「…ここ、は…」
「目ぇ覚ましたか…心配させやがって、アベル…」
アベルが体を起こし、ギルドマスターに森での出来事を話した。森の異常、特殊個体の発生、パーティの崩壊――話を聞き終えたギルマスターは、即座に受付に指示を出す
「森の立ち入り禁止を解除して冒険者を送り出せ。討伐部位は要らん。数さえ分かればいい」
受付の者がうなずき、すぐに動き出す。ギルドマスターは確信していた。スタンピードは確実に発生し、とめられない。と
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