第7話 異常の予兆

翌日僕たちは草原へ足を運んでいた

「討伐対象を覚えているか?ヒロト」

「ああ、確かウォーウルフとシルバーウルフだったよな?」

ウォーウルフ。群れを作らず単独行動を好む大型の狼。中には魔法を使う個体もいる。

シルバーウルフ。銀色の体毛を持ち、群れで行動する。群れの数は3〜8匹。初心者には厳しい相手だ

「今回は10匹狩れたら良しとしよう。ヒロトが先制攻撃、僕が引き付けるからアルラーとヒロトがウルフを攻撃してくれ。ハンスは僕に回復魔法を」

「分かったわ」「分かりました」「了解」

草原を進むと、ポツンと佇むウォーウルフの姿が見えた

「もうやっていいんだよな?」

「ああ。一撃で仕留められるなら、構わない」

僕は弓を構えた。前よりも格段に良い装備――硬くしなやかな弓と矢。ギギ……と弦を引き、矢をウォーウルフの眉間へと狙い定める

すると、風向きが変わり後ろから風が吹いてくる

「風向きが変わった……!」

ウォーウルフが僕たちの匂いに気づいたのかこちらに顔を向け唸ってくる

「気づかれた、けどもう遅い」

放った矢は一直線に眉間を貫いた──はずだった。しかし、ウォーウルフは矢が刺さったまま、こちらへ突進してきた

「刺さったはずなのになんで!?」

「生命力が高いな、だが…」

レオンがその勢いを逆手に取り、剣を構えずに切りつける。刀身が深く肉を裂き、ウォーウルフはようやく絶命した

「仕留めたことだし剝ぎ取ろうか。肉は美味いって聞くし、皮も使えるからね」

そうして剝いでいると、獣の匂いに誘われたのか、またウォーウルフが現れた

「…群れを作っている!?そんな馬鹿な!」

驚くのも無理はない。本来単独行動を好むはずのウォーウルフ。しかし目の前に現れたウォーウルフは4体の群れを成し、こちら側に近づいて来ているのだから

ウォーウルフたちは広がり、統率が取れているのか僕らを囲い込もうと動いてくる。唸り声はなく、自然と体が動いているようなそんな動きだった

「囲まれるのはまずい、アルラー!」

「フレイムスピア!」

名前を呼ばれたときにはすでに詠唱を終え、一番体の大きい個体に魔法を放っていた

ウォーウルフは避けようとしたが、間に合わず体を貫かれ、体も火だるまになった。残った三体は僕らを囲もうとまだ動いている

「仕方ない…正面突破、だな」

「ええ」

そういったレオンは一番近いウォーウルフに突撃をし、アルラーは離れた個体に魔法を放った

短いが激しい戦闘の末、ウォーウルフの群れはすべて倒された。僕たちには傷一つない

「危なかった…まさかウォーウルフが群れを作っているとは…」

「はっきり言ってこれは異常です。ギルドに戻りいち早く報告をするべきだと私は思います」

「そうだなハンス。今日はもう引き上げよう」

街へ戻った僕たちは、報酬の換金を終えると、すぐにギルドマスターのいる執務室へと向かった

ノックをすると、中から重厚感ある声が聞こえる

「入ってこい」

「失礼します」

ギルマスはソファを指さし、お茶を出してくれた

「要件は?」

「ウォーウルフが、群れを作っていました。それも、明らかに統率された動きでした」

「ふーむ……」

ギルマスは黙り込み、しばらく考え込んだあと、重く口を開いた

「……数日後に分かることだったが、先に話しておこう。スタンピードの可能性がある」

「なっ!?それは本当ですか!?」

「ああ。今回の報告で、その可能性が一気に高くなった」

それだけ言い残すと、ギルドマスターは僕たちを退出させた

「スタンピードだなんて…私たちの街が…!」

「嘆いていても仕方がない。今日はもう解散しよう」

レオンのその言葉で、僕たちはそれぞれ帰路についた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る