第23話
同じころ、頭の痛い案件がヴェルターを悩ませていた。
隣国、ラゥルウントのことだ。
フリデン王国は隣国ラゥルウントのと国堺に広大な鉱山を有していた。
この鉱山を有する山脈の三分の一程度がラゥルウントの国土だった。かつて、鉱山が莫大な金になるとわかると、この鉱山の争奪をめぐって多くの国と戦争が起こり、大戦へと発展した過去があった。誰もがラゥルウントなどの小国はあっという間に制圧されるだろうと予測したが、ラゥルウントの王城が陥落することは無かった。大国と争ってもそうなのだから、いつしかラゥルウントの軍事力は他国にとって脅威になっていった。そこから時世が変わるまでラゥルウントは頑なに鎖国に近い姿勢をとっていたが、先代国王がフリデンを筆頭に他国との国交を受け入れたのだ。
フリデンとラゥルウントの国境の山脈は長く手つかずであった。というのも、採掘にあたり山頂部から垂直の坑道を掘れば、山の麓に排水と、坑内に新鮮な空気を送る坑道を開けなければならない。地形からこの排水と空気のための坑道はラゥルウントの所有地に作るほかなく、長く宝の山を目の前にがそこで手をこまねくしかなかったのだ。だが、フリデンの辺境伯アデルモ・フォン・エアハルドの巧みな外交力で採掘地のラゥルウント側の鉱山地の領主を懐柔するまで漕ぎつけた。やがてラゥルウントの国王が首を縦に振った。
さらに鉱山は辺鄙なところにあり、労働者の確保、並びに労働者の衣食住の確保が課題になったが、ラゥルウント側の商人も都市開発に乗り出し共有の鉱山都市が出来た。フリデン王国にとって鉱山は多くの雇用を創出し経済に活気をもたらすものであった。それはラゥルウントも同じだった。
ラゥルウントとの関係性により、陸路も新たに開けた。以前は海路や、運河を遡って他国へ運び、または他国から仕入れていた。産業もラゥルウントの陸路を利用することによって、販路や交流が広がったのだ。フリデンはラゥルウントの権威による要請を利用した新たな販路を開拓出来た。
ラゥルウントの鉱山での取り分や通行料、関税などは条約により取り決めた。ラゥルウントにとって不条理なものではないはずだ……。
そうは思うが、締結された条約に目を通し、ヴェルターはこめかみを押さえた。王政が変わったのだ。友好的だった王が崩御され、娘が即位した。まだ若い女王はここ最近しきりに辺境伯と会談を設けているのだ。それも、非公式に。
何か、問題があるのか……。しかし、その女王の情報はあまりに少なく、その少ない情報さえあまりいいものではなかった。あまり、という程度ではなく、
「最悪だ」
ヴェルターはこめかみの指をさらに深めた。城はいつも大人の怒声、子供の鳴き声や叫び声が響いている。奴隷の子供がしょっちゅう姿を消す、だとか。
「かの国は、まだ奴隷制度があるというのか」
しかも、子供に何をしようと言うのか。ヴェルターは信じられない思いだったが、噂は噂に過ぎないと自分を戒めた。
辺境伯からの手紙にはラゥルウント王の詳細には触れていなかった。端的な内容だった。
ヴェルターはいずれ王位を継ぐことになる。今から面識を持った方がいいということだった。“殿下とも気が合うでしょう”と、意味深な言葉が添えられていたのが気にはなったが、一度視察も兼ねて辺境伯のところまで行くことにした。勿論、事前にラゥルウントの王へ謁見を求める文書も出した。
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