第九章

第40話

目が覚めて、隣で眠る蓮君を見て、昨夜の事を思い出して顔が熱くなる。



今思えば、何て思い切った事をしたのだろうと、羞恥で消えてなくなりたくなる。



私がベッドから降りようと、起こさないようにゆっくり動くと、元の場所に引き戻された。



「お、起きてたの?」



「んー……ぃや、寝てた。ぅー……何処行くの……行っちゃ駄目……」



蓮君に背を向けていた私の体が反転して、抱きすくめられる。



寝起きとは思えない、意外と強い力でがっちりホールドされていた。



「あ、あの……蓮君……シャワー、浴びさせて、欲しいなぁって……」



「……んー、もうちょっとだけ……。それに、今冴香ちゃんと動けないでしょ……だから、後で一緒に……はぃ……ろ……」



そのまま蓮君は眠りに落ちてしまったようで、規則正しい寝息が聞こえる。



ただ、今耳を疑うような言葉を聞いた気がする。



一緒に入ると言っていなかっただろうか。



いくらそういう事の後だとはいえ、それはそれ、これはこれである。



手の力が緩んだのを確認して、私は先程より更に慎重に動き、ベッドから降りた。



が。



「……あ、あれ?」



おかしい。



足に力が入らず、腰が抜けたみたいにその場にへたりこんでしまう。



蓮君が言っていた"動けない゛とは、これだったのか。



立ち上がれず、呆然としている私の体が宙に浮く。



「……ったく、動けないって言ったでしょ? だから後で一緒に入ろって言ったのに。意外とお転婆さんだね、冴香は」



抱き上げられ、ベッドへ座らされる。



「お湯を溜めてくるから、ちょっと待っててね。動かないように、分かった?」



頭を撫でられ、蓮君の背中を見送る。



言われて大人しく待っていると、少しして蓮君が戻って来る。



肌を重ねた後だというのに、裸の蓮君を目の前にすると目のやり場に困ってしまう。



「ひゃぁっ! れ、蓮君っ!? あのっ、降ろしっ……」



「立てなかったのは、何処の誰?」



「うっ……私、です……」



再び横抱きにされた私は、そのまま蓮君にバスルームへと連れて行かれ、一緒にシャワーを浴びる流れになってしまった。



といっても、もう立てるようにはなっているのに、蓮君は私を中にあった椅子に座らせる。



「もう、一人でも平気だよ?」



「俺が一緒に入りたいの」



そんな事を言われてしまったら、何も言えなくなってしまう。



本当に蓮君は私の扱いが上手くなっている気がする。



温かいシャワーの熱気がバスルームに充満し、丁度いい温度が体に沁みる。



「俺が洗ったげるから、冴香は大人しくしてて」



「えっ、い、いいよっ! 自分で出来っ……んっ……」



いつの間にか泡を付けた蓮君の手が、後ろから私の体を優しい手つきで滑る。



「ちょ、れん……くっ……ゃあっ……」



「洗ってるだけなのに、何でそんなえっちな声出すの? 気持ちよくなっちゃったの?」



耳元で囁く蓮君の甘い声に体を捩るけど、後ろから包まれるみたいな体勢に、動けなくて。



「冴香、今自分がどんなに可愛い顔してるか分かってる?」



何処か興奮したように言われ、目の前にある縦長の大きな鏡をチラ見する。



そこには、今まで見た事がなかった、自分の淫らではしたなく、目を疑うような知らない顔があった。



羞恥に目を逸らす。

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