第28話

前に春樹が言っていた、琉玖夜は何にも大きな興味は示さない、と。



「だから、美遥ちゃんに執着する琉玖夜は、結構レアなんだよ」



そう言われた事を思い出し、頬に熱が集まる。



誰かの特別になった事がないから、どういう反応をしていいのか分からず、少しこそばゆい感じだ。



そんな事を考えていると、頬に何かが刺さる感覚がして、彼を見る。



「何百面相してんの?」



琉玖夜の指が頬に刺さっていて、驚いた。



普段クールで淡々とした性格が目立つ琉玖夜が、たまに見せる子供のような一面。



彼の家族関係や、今まで置かれていた環境も知らなくて。



知りたくて、でも聞いていいのか分からなくて。



それを考えると、ふと頭を過ぎるのは自分の家庭の事。



母は、どうしているのだろうか。



決して愛情を深くかけられた記憶はそれほどないのに、やはり家族であるという変えられない事実はそこにあって。



「何考えてんの?」



いつの間にか食べ終わっていた琉玖夜から、また疑問が飛んでくる。



「お母さんの、事……どうしてるかなって……」



「……様子見に行ってみるか? 怖いなら、俺もついていくけど」



確かに、一人であの家に帰る勇気は、今の私にはなくて。



私は琉玖夜の顔を見つめて、控え目に頷いた。



それからは時間が早く感じて、時間が経って欲しいような、止まって欲しいような。



それでも時間は進んで行くわけで。



あっという間に下校時刻となる。



帰宅準備をする手が、緊張のせいで震えて何度か教科書を落とした。



何にそこまで緊張しているのかと聞かれたら、答えられない。



父にしか興味がない母が、私を目に入れたところで、何も変わらないのに。



「美遥」



教室の外から声がし、教室が少しザワついた。



そちらを見ると、相変わらず綺麗な顔をして、無愛想に立っている琉玖夜。



姿を見て、少し心が軽くなる。



それでも体の震えは止まらない。



ゆっくり彼の元へ歩いていく。



目の前の琉玖夜を見上げると、そこには私にしか向けられる事はないであろう、優しい微笑みがあった。



そのせいか、また少し教室がザワついたけれど、今の私にはそんな事を気にする余裕はなかった。



そっと手が握られる。



「大丈夫か?」



「うん……琉玖夜がいるから、大丈夫」



私は弱々しくだけれど、笑ってみせた。



手から琉玖夜の温もりが伝わる。



いつの間にか、私の震えは止まっていた。



不思議だけれど、どんな時も彼は私を安心させる。



私を助けてくれた、あの時みたいに。



強くもなく、でも離れないように手を握り会う。



家への道が、久しぶりで少しづつ緊張からか、体が強ばって足が重い。



離れていた時間はそれほど長くはないのに、妙な懐かしさがある家が見えてくる。



琉玖夜の手を握る力が強くなる。

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