俺の親友は勇者らしい。(※いいえ、女勇者です)

桜井日高

……なんだこのかわいい幼女

 新年度、高校二年生になる俺――秋山あきやまけいには親友と呼べる男子生徒が一人いる。名前は――九重ここのえサクヤ。


 金色こんじきに染まるショートウルフカット。


 中性的な顔立ち、碧眼へきがん。睫毛が長いクールビューティーな美少年。


 小柄で、女の子のような華奢な体躯でありながら、そこはかとない威風を放つ男子生徒である。


 入学当初は物静かな男子生徒だった。


 サクヤと初めてちゃんと話したのは高校一年の二学期。


 席が近くなったことがきっかけだった。


 最初は表情かおを隠すことなく、めんどくさそうにあしらわれていた。会話は社会の潤滑油だよ?


 とある日。諦めたようなため息と共に段々と言葉を返してくれるようになった。


 ――しばらくして。


 口を綻ばせてお互い打ち解けていく。昼休み一緒に弁当を囲むようになる。


 談笑を交えて一緒に登下校をするまで仲良くなった。……のだが、最近俺はサクヤに対して思うことがある。


 俺の親友はファンタジー作品の主人公ではないか――と。


 思い当たる節が多々あるのだ。


 例えば【勇者ゆうしゃ】とか【精霊せいれい】とか【聖剣せいけん】とか【魔法まほう】といった言葉にやたら過剰に反応するし。


 登下校の途中、サクヤの前でフッ――と風が吹けば、


「風が……俺を呼んでいる」


 と、小さな声音で独り言を呟く。勿論、隣に居る俺にもがっつり聞こえている。


 お前はパワ■アニ○に選ばれた六人目のガ○の戦士か! と何度も心の中で突っ込んでしまう始末だ。


 そして、そういう時、サクヤは決まって何かと理由を付けて一人きびすを返す。


   ◇


 ――新学期。


 私立なん高等学校クラス替えは『クラコミ』という、学校と生徒・保護者との連絡に使われているアプリを利用して、通知された組表に目を通した。


 2年2組

 秋山慧。


 組表にはサクヤの名前もあり、俺は2年連続で親友と同じクラスになった。思わず安堵の笑みを浮かべる。


 灰色を基調としたブレザーに袖を通し、朝の身支度を済ませてアパートを後にした。


「――けい、おっす」


 私立屋玖楠高等学校へと繋がるバス停近くの三叉路にて、軽く手を上げながら柔和な笑みを浮かべサクヤは挨拶を口にした。


「おっす、朝から上機嫌だな」


「えっ、そうかな……ふふっ、そうかも」


 口元の笑みを絶やすことなくサクヤは続けて言う。


「だって、僕達2年連続で同じクラスになれたんだよ。これってもう運命だよね!」


 朝から俺の親友が重い。


 はいはい――と軽く受け流すと、サクヤは不服そうにジト目を向けてきた。


 ……不意打ち過ぎる。正直かわいい――だが、サクヤは男だ。


「行くか」


「うん!」


 俺達は私立屋玖楠高等学校へと足を進めた。


 ――体育館にて、校長の長々とした挨拶やら、新入生と在校生に向けた生徒会長の挨拶やらやらを体操座りで聞き流し、踵を上げて大きく背伸びを一つ。


 始業式を終えて、教室へと踵を返した。


 新学期初日は始業式とロングホームルームだけだった。


「サクヤ、放課後ラーメン食べて帰ろうぜ」


「いいよ」


 昇降口で上履きからローファーに履き替えて、校門を後にする。


 ラーメンを追い求めいざゆかん。と、思っていたのだが……。


 不意にふわっ――と前髪がなびくほどの風が吹いた。


「……今の風」


 春風かな?


「風が……俺を呼んでいる」


 うん、言うと思った。


「……でも……これは……まさか」


 頬に伝う一筋の汗と共に、動揺を隠せない様子のサクヤ。


「ごめん、慧。急用ができた」


「……そうか」


 嫌なら普通に断ってくれても良いんだよ?


「この埋め合わせは必ずするから」


 両手を合わせて申し訳無さそうに言うサクヤに、気にするな――と言葉を返す。


 軽く手を振り別れると、俺の親友は地面を蹴って足早に去っていった。一人ラーメンが確定しました。


   ◇


 ――ふむ、此処が彼奴あやつが言っていた世界か。


 自身が創り上げた異空間と共に、閑散とした住宅街に――異世界の魔王は舞い降りた。


 ウェーブがかかった白茶色の長髪。色白。紅玉ルベウスに染まる双眸が印象的な傾国の美女。


 胸元が開いた妖艶な漆黒のドレスを身に纏い、ふわり地面に足を付ける。(ん?)


 魔王の視線の先には、四人の現代人が立っていた。


「このかつて感じたことがない重圧」


「……立ってるだけで……しんどい」


「いやいや、だからってユキノ先輩。わたしの腕にしがみつかないで下さいよ……。サクヤ先輩。人避けの魔法はユキノ先輩が済ませてます。そして、あれは恐らく」


「うん。初代が残した資料で見たことがある。あれが魔王。みんな……いくよ」


 金色に染まる髪を持つ、少年の手元に顕現した聖剣を見て魔王は大きく目が見開いた。


……」


 言って、ニヤリ楽しそうな笑みを浮かべる魔王。


「……異世界語?」


「みたいですね」


 薄墨色に染まる黒長髪を垂らしながら、首を傾げるユキノに隣の彼女が首を縦に振った。


――そうか、主等にあちらの世界の言語は通じないらしいのぅ」


 魔王の言葉に、彼女と対峙する四人は驚きを隠すことができなかった。


現代世界こちら側の言語を喋った!?」


「まさかの……のじゃ口調」


 笑みを絶やすことなく魔王は二度口を開く。


「話が通じるのであれば、一応、儂に聖剣ソレを向ける理由を聞いてもよいか?」


一行である僕達がお前に剣を向ける理由は一つだ! 魔王」


「何故この世界に足を踏み込んできた。目的を言え」


「確かに、わしは魔王じゃが……しかし、……くくっ……あはははははは!」


 彼女達の言葉に空を見上げて腹を抱えて高らかに魔王は笑った。


「……な、何がおかしい!」


 長い髪を後ろでポニーテールに纏めている四人の中で一番背丈が高い女子は、少し声を荒らげて腰に帯刀している柄に手を掛けて身構える。


「いや、なに、主等程度の実力で儂に勝てると思っているのかと考えたら――つい、のう」


(儂がこの世界に来た目的を彼奴等に話したところで、到底信じてもらえるとは思えんし)


 口角を吊り上げて魔王は言う。


「儂の右手小指一つで、少し相手をしてやろう。無駄な殺生をするつもりは毛頭ないから安心して全力でかかってこい」


「「「「――っ」」」」


 舐めるなぁ! ――と、鞘を抜き刀身を顕にした現代の女剣士は、自身が持つ最大量の魔力を刀に込めて魔王へと斬り掛かった。


「リオさん!」


 現代剣士の名はリオというらしい。


「ユキノ、リオさんに身体強化の支援魔法――」


「――言われなくても……今やってる」


 魔王は先程発した言葉通り、女剣士――リオの一太刀を右手の小指一つで止めた。


 そして、魔王はニヤリと八重歯に交じった笑みを浮かべると同時にリオは意識を失った。


「リオさん!?」


「は?」


「……えっ、なんで」


 バタリ地面に倒れ込むリオを見て驚きを隠すことができない三人。


「怒りに身を任せてバカ正直に突っ込んでくる阿呆。凡才剣士と言ったところか……」


「リオさんに何をした!」


 聖剣の所有者――サクヤは異世界の魔王に向けて声を張り上げた。


「喚くな。死んではおらぬ、意識を失っているだけじゃ。次は主が相手か?」


「――ああ」


 サクヤが手に持つ聖剣が疾風を身に纏う。

 そんな現代勇者を目にして魔王は、ハッっと鼻で嗤った。


「偽りの勇者か――」


   ◇


 醤油豚骨ラーメンをすすり終えて、一人飯を堪能した俺は重い足を上げて自宅であるアパートの階段を上る。


 俺は高校進学と同時に一人暮らしをしている。


 手にはスーパーのレジ袋を掲げて、中にはインスタントやら食材やら紙パックの牛乳、コーヒーが入っているためかなり重い。


 がちゃ――と鍵を開けたタイミングで、


「――へ?」


 玄関先の天井から、黒いドレスを身に纏った、可愛らしい幼女が舞い降りた。……なんだこのかわいい幼女。


 宝石のような美しさを放つ紅眼と共に、幼女は柔和な笑みを浮かべて言った。


御機嫌様ごきげんよう、この世界の住人。わしは異世界の魔王じゃ」


「なるほど~」


 言って、俺は引き攣った笑みを浮かべながら、制服のポケットに入れていたスマホを手に取った。

―――――――――――――――――――――――

数年前に書いて消してしまった作品を一から書き直して投稿しました。ゆるっと更新します(⁠ ⁠╹⁠▽⁠╹⁠ ⁠)

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俺の親友は勇者らしい。(※いいえ、女勇者です) 桜井日高 @yoake27

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