【雪と羽 2/3 ─ 海に沈む羽根 ─ 】

 ──緑とルビー、ブルーソードの三人で、会った日のこと……──


B「なぁユキのことなんだけどよ、ある情報を手に入れたんだ」


 ブルーソードが、こんなことを言った。


ル「え? なになに!」


 ルビーは期待しながら、ブ ルーソードに聞き返す。

 緑は、なぜか不安な表情を作った。


緑「雪哉のこと? ……ヤダ。聞きたくない。なんだか怖い……」


「「…………」」


 なぜ緑はそう言い、暗い顔をするのか……──ブルーソードとルビーからすれば、不思議なことだった。


B「別に怖くない。寧ろ、いい有力情報だ」


ル「いい話だって? 良かったじゃない、緑」


 不安気な緑に気を使って、二人は明るめの表情を作った。


緑「…………なに?」


 相変わらず不安そうだが、緑はその話を聞く気になったらしい。


B「有力情報だ。──どうやらユキには、一人兄弟がいるらしい。その兄弟は、はっきり言って、どこの誰だかも分からないし、男か女なのかも分からない。……──そしてこの兄弟も、ユキよりも昔に、両親の元を離れている。おそらくこの子も、売り飛ばされたりしたんだろう……」


 話を聞くと、ルビーは悲しそうな表情をした。


ル「ちょっとアナタね? どこがいい情報なのよ? 緑が悲しむだけよ!」


B「そう怒るな、ルビー。俺が言いたいのは、“ユキと同じような思いをしている、実の兄弟がいる”っつーことだ」


ル「…………」


B「もしも、その兄弟を見つけ出せたとしたら、どうだ? ソイツになら、ユキの傷を癒せると思わないか? ──俺はその兄弟を捜してやりたい」


 ブルーソードの話の意図を理解したルビーは、パッと明るい表情を作った。

 けれどやはり緑は、なぜか困惑の表情を浮かべていた。

 緑の表情に気がついた二人も、どうしたらいいのかが、よく分からなくなってくる……──

 気まずい空気が流れた……──


ル「……そうだ、お腹すかなかった? 私、すぐそこのコンビニで、何か買ってくる……」


 “この話は避けた方がいい”、そう判断したルビーが、気をきかせてそう言った。


B「……腹減ったよな……ルビー、頼んだ」


 ブルーソードも緑の機嫌を伺うように、ルビーの話に合わせた。


 ──ルビーがコンビニへと向かい、部屋には、緑とブルーソード、二人だけになった。


「「……――」」


 ──空気が重い。緑は例の男と一身上の都合で別れてから、何かと不安定なのだ。近頃はユキの存在が緑の支えとなっていた筈だったのだが……──本当に、どうしたと言うのか? 今の目の前の緑は、ユキと出会う以前に戻ってしまったかのようだった。


「……なっなんだか、髪、クルクルしててスゲェーな……」


 “何か話題を作らないとならない”と……そう思ったブルーソードが、不器用に緑の髪型を褒めてみた。クルクルと言うのは、巻き髪のことだった。


「……いつも巻いてるじゃない」


「…………確かに……──いやいや、いつもより、綺麗に巻けてる!」


 苦しまぎれの褒め方だ。


「……ありがと」


「「…………」」


 ──だがすぐに、再び沈黙した。

 “また、何か話題を……”と、ブルーソードはそう思った。


「……あっつーか、前髪切ったよな?」


「……よく気が付いたね」


「気が付くさ! 似合ってる。女って前髪切ると、可愛らしい印象になるよな? 緑もずいぶん可愛くなったな! ……」


 話題に困り、なぜか褒め殺しだ。

 すると、緑がキッと、ブルーソードを睨み付けた。


「アンタね、さっきから何? ……――――

口説いてるの?」


「?! なんだって?!」


「だからさぁ、私のこと、口説いてるの?」


「「…………――」」


 口説いている訳ではない。 褒め殺し以外に、話題が思いつかなかったのだ。緑に機嫌を直してもらいたかったから。

 けれど今の緑に、“勘違いだ”と言うのも、何だか心苦しく……否定も肯定も出来なくなった。


「……ねぇ私のこと好き?」


 この質問に、ブルーソードは焦った。


「?! ……嫌いじゃねーよ? 嫌いじゃねーし! は? 『好き』ってなんだ? 好きにもいろんな種類があるじゃん? 嫌いじゃないからな?! 緑のことは、“好きだ”」


 焦りまくった結果、だらだらと話した。──今もこうして共にいる幼馴染みの事を、嫌っている筈がない。──『好きにもいろんな種類がある』、緑の事は確かに好きなのだろう。大切な幼馴染み──


 『好きだ』と、その言葉を聞くと、緑がスッと、ブルーソードの背中に腕を回した。


「……なら、今日だけ、ココで泣かして……」


 緑はブルーソードの胸で、泣いた。


「…………―――なぁ緑、さっきのユキの話……どうして、あんな表情をしたんだ?」


 ブルーソードもようやく、一番聞きたかったことを、緑に聞けた。


「……ううん。私が可笑しいの……実の兄弟が見つかれば、雪哉は喜ぶと思う。なのに……――」


「“なのに”……どうした? ……」


「なのに、雪哉を思う感情と、自分の孤独が葛藤してる……雪哉の兄弟が見つかったら、私はまた、一人になっちゃうんじゃないかって……――」


「…………」


 緑はポロポロと泣き続けて、ブルーソードの胸を涙で濡らしていた。


 ──少し前にコンビニから帰って来ていたルビーは、扉の外で、そっと二人の会話を聞いていた。

 部屋に入るにも入りずらくて、扉の外で、そっと緑を見守っていた……──


 ──緑はそう正直な胸の内を話した。けれどそれは緑にとって、“雪哉の兄弟を捜さなくて良い”という事には、繋がらない。三人は、雪哉の兄弟を捜すことを選んだのだ。

 ──けれど、結局、見付けることは出来なかった。

 ……ある程度は捜して、諦めてしまったのは、緑のこの件があったからだったのかもしれない……──


****


 ──月日は経ち、雪哉は14歳になった。大人と子どもの境目、中学生だ。


「学校は楽しい?」


 緑が朝食を用意しながら、雪哉に聞いた。

 雪哉は不機嫌そうに答える。


「普通」


「普通って言いながら、そんな不機嫌そうな顔をするのね? 何か、嫌なことがあるんじゃない?」


「…………」


「雪哉? 緑はなんでも、雪哉の話を聞くわ」


 すると雪哉が、不機嫌そうな表情のまま、ようやく話し始めた。


「女共がジロジロ見てくんだよ! あれ絶対ケンカ売ってる! 睨み返してやったら“キャー”とか言いやがる! 甲高い声で騒いでんじゃねぇーよ!」


「あらあら……」


 話を聞き、緑はクスクスと笑った。


「緑、なに笑ってんだ?」


「雪哉ったら、何も分かってないのね? 女の子たちは、ケンカを売ってる訳じゃないわ」


「……じゃあ何? ……」


「雪哉がカッコイイから。モテてるのよ?」


「…………は? …………」


 雪哉はポカンと口をあけた。緑はさらに、クスクスと笑った。


「雪哉だって、好きな子とか出来るでしょう? それと同じよ」


「……好きな子? いない。そんな奴、出来たこともない」


「あら、そうだったの? 焦らなくても良いのよ? きっとそのうち、素敵な子が現れるから」


 緑はニッコリと笑った。……──けれどその後に、少し不安そうな表情で、こんなことを言った。


「……男の子たちに、意地悪されたりしてないわよね? ……雪哉はモテるから、心配だわ」


 雪哉はまた、ポカンと口をあけた。


「え? ぜんぜん大丈夫だし」


 すると緑は、ほっと胸を撫で下ろし、安心した表情を作った。



 ──そう、朝、緑とこんな話をしてた。


 そして、今日も学校へと登校した。


 相変わらず、女がジロジロ見てきた。それを鬱陶しく思う。今までは睨み返していたが、緑が『ケンカを売ってる訳じゃない』と、そう言っていた。だから、睨み返さないように我慢した。睨み返さなかったら、“キャー”なんて騒がれなかった。耳障りな甲高い声がしなくて、気分も晴れる。

 だが事件は、放課後、雪哉が帰ろうとした時に起こった──


「お前ら誰?」


 雪哉の前に、同じ制服を着た男子生徒が四、五人立っていた。

 同じ制服だが、面識はない。

 制服は酷く気崩されていて、髪も染めているような人たちばかりだった。


―「コッチ来い」


 腕を強引に引っ張られた。


「……?? ……」


 マイペースな雪哉は、何が何なのか、よく分かっていなかった。この男たちは明らかに、怒っているような雰囲気だけれど、ケンカを売られる覚えなどない。


 ──そうして連れて来られたのは、体育倉庫。

 放課後の体育館は、いつもだったらバスケ部が使っていた。だが今日は珍しく、外練の日だったらしい。──体育館には誰もいない。

 今日の放課後は、誰も体育館にいないということは、勿論、この男子生徒たちの計算に入っていた。


「テメー、俺の女に手ぇ出してんじゃねぇーよ!」


「は? 出してねぇし」


 全く覚えがなかった。明らかに、何かを誤解されていた。


「惚けんな! “エミ”のこと知ってんだろ!?」


 そもそも“エミ”と言う名前の、友達すらいない。


「…………――あっ……」


 けれどクラスメイトに、その名前の女の子がいるのを思い出した。

 その女の子は、いつも雪哉に“キャーキャー”と騒いでいる女の子の中の、一人だった。


―「どうやら覚えがあるみたいだな? テメーのことは、前から気に食わなかったんだ! この機会にしっかりシメてやるよ!」


「は? 意味分かんねぇーよ。俺は……――」


 ──その時、正面から拳が飛んできた……

 ──反射的に、その拳を雪哉は受け止めた。

 男子生徒たちも、受け止められるとは思ってなかった。雪哉も自分で驚いていた。


―「……コイツをしっかり掴んでおけ!」


 拳を受け止められてバツが悪そうな男が、仲間に叫んだ。

──1対5……抵抗なんて出来なかった。

 二人の男に両腕を捕まれて、他の奴等に腹などを蹴られた。


―「顔は狙うな。バレたら面倒だからな」


 ──あえて、顔面は狙ってこない。


 ……──そうして何発か蹴られて、ようやく男たちが、雪哉の腕を離した。

 そのまま床へと倒れ込む。 床に倒れ込んだ時、偶然、首にかけていたネックレスが襟元を潜り、制服の外へと滑り出てきた。 ──緑から貰った、シルバーネックレス……──


「……こんなモノ付けて、調子越えてんじゃねーぞ?」


 男が雪哉から、シルバーネックレスを奪い取った。


「…………――――返せ……」


 消え入りそうな声で、呟く……──


―「あ? なんか言ったか?」


 男がわざと聞き返す。


「“返せ”ッて言ってんだよ!!」


 雪哉は起き上がって、ネックレスを持つ男を睨みつけた。

 恐ろしいくらい、冷たい……雪哉の瞳……――

 男子生徒たちは、その瞳に、気迫に、圧倒されていた。

 ……──怯んだ男に飛びかかって、馬乗りにして、殴った。


―「……!? ……――」


 思わぬ事態に、男子生徒たちは戸惑う。


―「コノ野郎ッ離せッ! ……――」


 他の男二人が、馬乗りになる雪哉を、自分の仲間から引き剥がした。


―「……やりやがったな! ……――畜生ッ……」


 男子生徒が、奪ったネックレスを床に叩き付けるように投げた。

 ──そして男子生徒たちは、逃げるように立ち去る。


 ─―ハァハァ……――――――


 自分の荒い呼吸だけが、静かな体育倉庫に響いている。

 フラフラとしながら、床に落ちたネックレスを拾った。そしてそのまま、体育倉庫に倒れ込む……――


 ──人に初めて暴力を振るわれた。


 ──人を初めて殴った。


 ──無性に怖かった。


 ──自分が恐ろしかった。


 殴った手が、カタカタと小さく震えている……──

 自分の中の冷酷さに、気付かされた……



 ──この事件以来、高校生によくケンカを売られるようになった。恐らくあの男子生徒たちの、不良仲間の先輩だ。

 自然に、ケンカに慣れていった……──


****


 ──そして雪哉が高校生になった、ある日のことだ──



 ──黒須学院は治安の悪さで有名だ。 ケンカなど毎日起こっている。

 はっきり言って雪哉は、こんなに治安が悪いとは思っていなかったのだ。雪哉自身も、時々ケンカを売られる。──面倒に思っていた。


「お前が白谷か?」


 その日雪哉は、同学年の生徒に話しかけられた。


「俺が白谷だけど、何か用か?」


「お前、ケンカ強いってホント?」


「知らねーよ。自分のことなんか分からねぇ」


 すると話を聞いたその男が、ニヤッと笑った。


「なら俺と、やってみねぇか?」


 まさかの、ケンカの誘いの話であった。


「遠慮する。めんどくせー……」


「は? もったいねぇーやつ……」


 ケンカを断られた男は、がっかりと肩を落とした。


「何がもったいないんだよ?」


「もったいねぇーよ! お前ケンカ強いって有名じゃん。ここまできたら、学園トップ狙えよ?」


「ケンカで有名になってどうするんだよ?! バカじゃねぇーの?」


「いいじゃねーかよ! 俺は羨ましいけど……」


「は? お前、変な奴だな」


「せっかく褒めてやったのに、“変な奴”って……」


 その男はシュンと肩を落とす。

 そして雪哉は、そのまま立ち去る……──


「あ! 待てよ、白谷!!」


 だが男は、何故かついて来る。


「なんだよ……ついて来るな」


 歩き続けながら、一応返答はした。


「白谷! 一度だけで良いから、俺と手合わせしてくれ!」


「…………。やっぱりお前、変な奴だな……」


「変じゃねーよ! 白谷ぃ~! マヂ頼むよぉ~! ……」


「泣き付くな! キモチワルイ……」


「白谷ぃ~! なぁ!」


「…………」


 無視するが、しつこくまとわりついてくる。


「お前、なんでそんなに嫌がるんだよ! まさか、本当は女なのか?!」


 ただの冗談だっただろう。……だが雪哉は、その言葉にカチンときた。


「女じゃねーよ! ……ガキの頃は間違えられたりしたけど……さすがにもう、女には見えねぇーだろうが!」


「そうだな! 怒らせればケンカしてくれる思ったから、言っただけだ」


「お前タチ悪いな……」


「それにしても、その女顔、相当気にしてんだな? (笑)」


「何笑ってんだよ! テメーこそ女顔だろ! しかも俺と違って、テメーはチビだし……――お前?! もしかして女か?!」


「俺も男だ!! チビって言うな! コノ女顔!!」


「はぁ?! 女顔って言うな! コノ女顔!!」


 ──この日意味の分からない奴と出会って、結局、殴り合いのケンカになった。


 ──そして勝敗の結果は、やはり雪哉が勝った。


「やっぱり、白谷は強ぇーな」


 生傷だらけの顔をあげて、ソイツが言った。

 負けたくせに、なぜかソイツは笑った。


「ホント変な奴だな? ドMか?」


「……違ぇーよ! ……強ぇ奴に会って……なんだか、ワクワクすんだよ……」


 こんなことを言う奴に、初めて会った。

 ──〝なんだ? その思考? 〟と、コノ変な男に、少しだけ興味を持った──


「…………お前、名前は?」


……――」


 ──いずれ師走は、ブラック オーシャンの、西の右腕となる。

 ──“霜矢”は、忠誠を表した“仮の名”だ。この頃は当然、まだこの名はない──


****


 ──そして師走と初めて会った日から、数日経った、ある日の夜のこと……──


 この夜、雪哉の目の前には、黒い特攻服をその身にまとった集団がいた。


 ──“BLACK OCEAN”──


 今目の前にいる集団は、自分雪哉に、一体何の用があるというのか?


 今日此処で、自分の人生が終わるのではないか? ……――そんなことを、真面目に思った。


 そんなことを考えているわりに、冷静だった。


 この集団を目の前にして、恐怖が沸かなかったのは、 自分がどこかでもう、疲れていたから──……


 親に見捨てられた、“あの日”から、心がえぐれたまま、生きてきた。


 抉れてかさぶたに変わっても、抉れた部分が埋らない──


 何だかもう、どうでも良かった。

 ──けれど緑の姿だけが、頭に浮かんだ。そして少しだけ、胸が痛んだ……――


「黒須の白谷 雪哉ってのは、お前か?」


 先頭に立つ男が口を開いた。


「そうだけど。それがどうした?」


「なら良かった。お前を捜していた」


「暴走族が何の用だ? 俺のことりにきたのか?」


「だったらどうするんだ?」


 雪哉はいたずらっぽく、口角を吊り上げた。


「悪あがきは一応して、いかにも“死にたくない人”の、フリはしてみたい」


 すると、先頭に立つ男が、可笑しそうにフッと笑った。


「変わった発言だな。お前にとって、悪あがきは死にたくない人の“フリ”なのか?」


「…………」


「──何故いちいち、フリをする?」


「自分は冷めているから、必死に生にしがみつく奴が羨ましい。だからだ」


「なら、お披露目会といこうじゃないか。“死にたくない人のフリ”、見せてくれよ?」


「かまわねぇ。なら掛かって来いよ……――」



 ──冷めてる……


 人なんて、簡単に信じない。


 信じてしまうと、失うのが恐ろしいから……


 ──瞳に浮かぶ曇り空……


 その瞳に映る、歪んだ世界……


 全てを壊して、必死に生きているフリをしていた……──



 ──本能で拳を避ける……そして殴る……防衛本能……──


 本能は“生きたい”と訴えている……


 そのことに、何度でも気が付きたい……


 本当は、この冷めた世界を終わらせたいから……


 ──冷めた心を暖めて……瞳の曇りを取り除き……


 鳥の飛ぶような、澄んだ心が欲しい──


 ……──いつかこの、曇り空を取り除いてくれる人が現れるのを、本当は期待している……──



 ──何人かがまとめて掛かってきたけれど、ドイツも容易く、地面に手をつく──


「フリする意味もねぇーか? 死ぬ気がしなくなってきた」


「大したものだな」


 先頭の男が、感心の表情をした。


「死ぬ気がしないなら、安心した。お前に死なれたら、困るからな」


「は? お前が言うセリフかよ?」


「悪かったな。元から俺は、お前をるつもりなんてない」


「はぁ? 意味分からねー……簡潔に話せよ」


「白谷、俺らの仲間になれ」


「…………え……? ……」


「名乗るのが遅くなったな。──俺はブラック オーシャン四代目総長、栗原 聡だ。 直々に勧誘する。──“俺らの仲間になれ”」


「何言ってるんだ? ……俺はそんなんに興味ねぇーよ……」


「お前の実力があれば、ブラック オーシャンの中でも上位になれる」


「……さっきの手合わせくらいで、何が分かるんだよ?」


「先程の手合わせもそうだが、他に理由がある。出てこい……――」


 栗原 聡に手招きをされて、一人の男が前に出た。


「お前はこの間の……」


 前に出てきたのは、“師走”だった。


栗「師走はブラック オーシャンの中で、上から15人の内に入る程の実力者だ」


師「なぁ白谷、俺らの仲間になれよ? 俺、お前のこと好きだ」


雪「“好き”とか言うなよ。キモチワルイ……やっぱり女だったのか? ……」


師「恋愛の“好き”じゃねぇーよ!!」


栗「……師走、顔赤いぞ? そういうことだったのか……」


師「ちっ違いますよ?! 総長!! 白谷がからかうせいです!! ……」


 取り乱す師走を見て、栗原は可笑しそうにクスクスと笑っていた。


栗「で、どうするんだ? 白谷 雪哉……──ここには、お前みたいな目をした奴が、大勢いる。 お前の居場所は、だ」



 ──曇り空に少しだけ……──

 

 ──光が差した……──



 ──それは“仲間”という枠で囲まれた、他人同士の集まり。けれどその言葉は、確かに心を癒した……──


 そして雪哉は、ブラック オーシャンの仲間になった。

 そして手に入れることになる。ブラック オーシャン、4の1“西のトップ”の座を……──




 鳥のように自由に羽ばたきたくて──


 けれど、何を自由と呼ぶのか、未だ解らない……


 空は憧れのまま……


 ──鳥のように羽ばたけぬなら、せめて雪のように、空に遊ばれたい……──


 空の夢はすぐに消え去る……──


 雪は海に溶けて消える……──


 〝空は憧れのまま〟―――


 ──その海の名は、“BLACK OCEAN”──……




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