Episode 11【オークション】
【オークション】
──椿の勝手な行動のせいで、絵梨はまた新たな場所へと連れて行かれてしまった。
絵梨は一体、どこへと連れて行かれただろうか? ──それがどこであったかと言うと……
──今宵も夜な夜な開かれる……──金と欲望が渦巻く、“闇オークション”――
「最近じゃ飛び入り参加が定番か? ま、俺のオークションは何でもありだからな」
青い髪に片目側に付いた刀傷……──。オークションの主催者が、やれやれと笑みを見せた。
「飛び入りじゃねぇ。まだ、オークションの30分前だ」
出展物を持ってきた男たちが、可笑しそうに笑った。
「兄さんたち、十分飛び入りだぜ?」
青髪の主催者・ブルーソードも、適当に笑って返した。
「で? どんなお宝だ?」
すると出展物を持ってきた男たちが、得意気に笑った。
「ブラック オーシャンの人魚姫だ」
「は? なんだと?!」
主催者は思わず、男に聞き返した。
「“ブラック オーシャンの人魚姫”だ。まさか、知っているだろう?」
「そりゃ知っているさ。……」
闇オークションの主催者こと、
「兄さんたち、悪いが、その出展物は認められねぇ」
「はぁ? なんだと? ブラック オーシャンの人魚姫だぞ? 目玉商品だ。出展を認めないっつーのはどういう事だ?」
ブルーソードとブラック オーシャンは縁が深い。世間的には、そんな事は知られていないのだ。
ブルーソードは困った表情で、とりあえず、タバコに火をつける……
「俺のオークションは治安は最悪だが、人売りは趣味じゃないのさ」
ブラック オーシャンとの関わりは、あえて話さない。……だが、人売りを避けているのは確かだった。
ブルーソードは出展を認めない。だが、男たちも粘った。
けれど、ブルーソードの考えは変わらない。
「畜生ッ! 出展を認めねぇなんて、馬鹿な奴だ! もういい!! 別の手段で売り飛ばしてやる!」
男たちは諦めて、ブルーソードに背を向ける。
「『別の手段で売り飛ばす』だと? はぁー……やれやれ、勘弁してくれよ。こりゃ、とんだ面倒事だぜ……」
すると男たちが、再びブルーソードの方へと向き直った。
「出展する気になったか?」
「……別に」
「あ?! どっちだよ! はっきりしろ!!」
ブルーソードはまた、ため息をついた。
「“出展は認めない”。だが、他に売り飛ばされる訳にもいかない。何故なら、そんな事をしたなら、お騒がせの四人組に、俺がボッコボコにされるのは目に見えているからだ」
「なに言ってやがるんだ?! 勝手なことを言うな」
「勝手じゃないさ。交渉だ。──ブラック オーシャンの人魚姫、俺に譲ってくれ」
「……金を出すなら考えてやってもいい」
「やっぱりそうなるか? ……はっきり言って、金は払いたくない」
「「「…………」」」
紫王側は、拍子抜けの空気だ。
〝ならどうする?〟と、全員がぐるぐると考えている間、タバコの煙がただ、天井まで伸びていった……──
「――だが、まぁ、そんなに言うなら仕方がない」
ブルーソードのいきなりの発言に、男たちは呆気に取られたようだ。
──ブルーソードが、にっこりと笑う。
「気が変わった。ブラック オーシャンの人魚姫、面白い。──最後のオオトリって事でどうだ?」
ブルーソードの言っていることは、先程とは180度違う。男たちは不審がるようにブルーソードを見ている。
「あれ? それがお望みなんじゃあなかったのかい? この話は白紙に戻すか?」
「待て! ……そうだ、望み通りだ。決まりだ」
ブルーソードは意味深に、口角をつり上げた……――
****
そしてその頃、雪哉に絵梨を任された師走 霜矢は……──
「いきなり人魚姫がいない!? どういうことだよ!! 俺をバカにしてんのか?!」
―「うるせーなぁ。知らねーよ。師走が間抜けなんだろう?」
「間抜けとかそんな問題じゃない! 人魚姫と接触しようとしたら、いきなりの行方不明。元からいないんだよ!」
―「なら間抜けじゃなくて、腑抜けか?」
―「師走が腑抜け? 傑作だな!」
「うるさい! いちいちちょっかい出してくるな!」
霜矢は現在通話中だ。電話越しに、二人の男の声が聞こえる……──
―「……分かったよ。で、どうして俺らに連絡をしてきたんだ?」
「当たり前だろ! 〝人魚姫の奪還〟だ。手伝え」
―「は? 一人で奪還してろよ?」
―「え?! 奪還?! どんな展開だ??」
「人魚姫はただ行方不明な訳じゃない。敵の手に落ちたんだ。居場所はもう特定した! いいから手伝え!」
―「相変わらず、情報収集が特技だな。どうやって調べているんだか……。──特定出来ているなら、さっさと助けに行けよ? 俺らは手伝わない。──大好きな白谷さんに泣き付いて、手伝ってもらえば良いだろう」
―「大好きな白谷さん?? なんだかキモい言い方だな」
「バカ言うな! 俺は雪哉に人魚姫を任されたんだ! 雪哉に泣き付ける訳ないだろ?! 手伝えよ!! 雪哉に嫌われるのは嫌だ!!」
―「……本音が出たな。だから、俺らに泣き付いている訳か」
―「泣き付いてるのか?! 傑作だな?! なぁ高野、俺にも電話代わってくれ! 可哀想な師走の叫びを聞いてみたい!!」
―「月、お前も相変わらずだな」
電話越しから、二人の会話が聞こえてきた。
霜矢の電話相手は、
──霜矢の電話の相手が、高野から月に代わる。
―「よぉ師走、久しぶりだな! 泣き付いてるっていうから、高野から電話代わってやった」
「は? 別に泣き付いてない!」
―「は? 思ったより泣いてねぇーな……つまらねぇ……」
「誰が泣くか!!」
―「で? 人魚姫がいなくなったってのか?」
「そうだ。奪還を手伝え! 雪哉に嫌われる!! 絶対に嫌だ!!」
すると電話から、面白可笑しそうに笑う月の声が聞こえてきた。
―「ハハハ! ……泣いて喚いてお願いされちゃ仕方がない。人魚姫奪還、俺と高野も手伝ってやるよ」
―「俺もかよ?!」
そうして高野の声を最後に、電話が切れた――
霜矢は通話の終わったスマートフォンの画面を、じっと見ている。 そして……──
─―♪……*♪……
まだすぐに、スマートフォンが鳴った。
ぶっきらぼうに、電話に出る師走。
―「それでだ師走! 俺たち、どこに行けばいいんだ?!」
「なに電話切ってるんだよ。バーカ!」
また、電話ごしに楽しそうな笑い声が聞こえてきた。 〝事件を楽しんでいるのか?〟と、そう疑いたくなる程の、楽観的な声だった──
****
──そしてその頃、オークション会場では……
「私はどうなるの?」
オークションは間もなく始まる。
オークションの出展物が置かれた、会場の裏側。その場所に絵梨もいた。
薄暗い場所に、絵梨はうずくまるように座っている。
「どうにもさせないさ」
“当たり前”と言うように、ブルーソードは絵梨に答えた。
「ウソよ。あなたはこの違法なオークションの主催者でしょう? 私はあなたにとって、ただの出展物。なんの情けをかけて、そんなことを言うの?」
絵梨からの刺さるような鋭い疑いの眼差しに射られて、ブルーソードはやれやれと苦笑いを浮かべる。
「さすが人魚姫様だ。この状況でも冷静だな。だが、君の言っていることは、間違いだ」
「間違い?」
「そうだ。君をどうもさせない。これは本当のことだ」
「なぜ、そんな情けをかけてくれるの?」
するとブルーソードが、言い聞かせるように、絵梨の目をしっかりと見て話す。
「それは、“君がブラック オークションの人魚姫だから”だ」
絵梨は自分を見るブルーソードのことを、しっかりと見つめ返した。〝答えになっていない〟と、まだ鋭く、ブルーソードのことを見極めようとしているかのように。
「陽介や聖、純、そして雪哉、あいつらの大切にするものは、俺にとっても大切なのさ」
「……あの四人を知っているの?」
「ああ。知っているとも。切っても切れない仲だ」
ブルーソードがニッと笑った。
その笑顔を前に、絵梨の中に少しだけ安心が生まれる。
「……ずっと前にも、こんなことがあったかな。懐かしい……――」
ブルーソードは昔を思い返すように、そう言っている。
「前にもって?」
「昔の話だ。それはまた後で教えてあげるよ。……──さて、君はオークションのオオトリ。その前に、君を強引に助け出してしまう第三者が必要だね」
「そんなやり方で、助けるんですか?」
「俺にとって、それが一番都合が良いんだ。君を奪い返しに来た誰かが、君を連れ去ってしまえば良い。──そうして俺は、出展物を盗まれた主催者。“何一つ関与はしていない”と言い張るさ」
そう言うと、ブルーソードはスマートフォンを取り出した。 どうやら、誰かに連絡するようだった。
「君が今捕らわれているのは、誰の責任だ? ……──雪哉の責任か? 確か人魚姫は、ユキの女だったよな?」
「雪哉に電話するつもり? ……」
ブルーソードはニッコリと笑った。
「もちろん。安心しな? ユキなら、簡単に君を助け出せるさ」
「……――」
絵梨は戸惑いの表情を浮かべる。
その様子に、ブルーソードも首を傾げる。
「……そんな浮かない顔をして、どうしたんだ?」
「……――」
「やれやれ……世話が焼ける。理由は知らないが、お姫様の言いたい事なら分かる。つまり、ユキに電話してほしくないんだね……?」
絵梨は悲し気に頷いた。
「そんな悲しそうにしないでくれ……苦手だ。──やれやれ、なら、誰と連絡を取ろうな……」
──オークション開始の5分前。
会場はざわざわと騒がしい。
「5分前か……マズイな」
ブルーソードは何気なく、オークションの開幕を待つ会場を覗き見る……──
「愉快だな。今宵も、飢えたハイエナ共が大勢集まった」
何が愉快なのか、ブルーソードはニッと笑った。
絵梨も、ブルーソードにつられて、会場を覗き込んだ。
「……――」
会場に集まっている連中は、見るからに危険そうな奴らばかりのように見える。“柄が悪そう”だ。
そんな光景に、絵梨は言葉を失った。
「……──って、愉快でもないか? マズイ……結局、誰に連絡をするか?」
ブルーソードは絵梨自身に問いかけた。
「……え? いえ、私に言われましても……」
「おいおいおい? 投げやりだね。助けられるのは、君だよ?」
「「…………」」
互いにポカンとしながら、顔を見合わせる二人。思わず沈黙だ。
だがその時、会場を覗くブルーソードの瞳に、ある人物の姿が映った。
「あいつらは確か……――」
「あいつら?」
ブルーソードが会場の中で見つけたのは、霜矢と高野、月、の三人だった。
「さすがだな! 良かった良かった!」
「何が良かったの?」
「君を助けに来た奴らが、もう会場にいるよ? 丸くおさまりそうだ! 良かった良かった!」
「え? 一体誰が……──」
「……──っと、もうこんな時間だ。オークションの開幕だ。──お姫様は、そこで大人しく待っていてくれ。大丈夫。君は助かるから」
「えっ待ってよ! ……ここにいれば、良いのよね……――」
そうとだけ言うと、ブルーソードはオークションの会場へと出て行ってしまった。
絵梨はまた、一人だけになった。
ソワソワと落ち着かないが、絵梨はブルーソードの言葉を信じることを決めた。
****
今宵も、愉快なオークションが始まりを告げた。
オークションの司会を務めるのは、ご存知、青髪に片目を通った刀傷・通称ブルーソード。
──このオークションの治安はワースト。ここは、ギラギラとした瞳をした、飢えたハイエナ共の溜まり場だ。
何でもありのこのオークション、野次の飛ばし合いに、殴り合い。このオークションは、もはや金だけでは、収拾がつかないのだ。落札した者と、落札出来なかった者。落札したい者と、落札したい者……──あらゆる理由で、結局は喧嘩になる。
──今夜もそんな喧嘩が3、4件は起こった。
その度に、ブルーソードは愉しそうに笑う。
──そしてついに、今回のオオトリだ……──
会場は、ざわざわと騒がしい……──
─―カンカンカン!!
「ハイ、皆さま静寂に! 次はいよいよ、今夜のオオトリだ」
ブルーソードが、騒がしかった会場を静めた。そして、切り出す……──
「今夜のオオトリは、ブラック オーシャンの人魚姫!」
ブルーソードはニッコリと笑ながら、ステージへと絵梨を導いてきた。
絵梨はロープで縛られているが、実際はロープは飾りのようなもので、緩く縛ってある。
絵梨がステージへと現れると、一度は静まっていた会場が、またざわざわと騒がしくなった。
「──人魚姫様、大人気だな?」
ブルーソードが絵梨へと耳打ちをした。
「……嬉しくない。私に何の価値があるわけ? バカバカしいし、気持ち悪っ(男共が)……」
「辛口お姫様……」
ブルーソードはステージから、会場を見渡す……──そして、会場にいる霜矢に向かって、ニッと笑った。
──そして霜矢たちは……──
霜「主催者が、アイコンタクトを取ってきた」
少し驚いた様子の霜矢。
高「喧嘩売ってるのか?」
月「違うだろ?」
『喧嘩を売ってる』と言った高野に、驚いた様子の霜矢。だが、月は『違う』と言った。──〝なぜ言い切れる?〟と、霜矢と高野が、月に疑問の眼差しを向ける。
月「お前ら、知らねーのか?」
高「何がだ?」
月「あの主催者は、人魚姫を売る気なんて、ないと思う」
霜「どうしてそう思う?」
すると月が、ニッコリと笑った。
月「当たり前だろう? あの主催者は、陽介兄貴の従兄弟だからだ!」
霜高「「は!?」」
霜矢と高野は、鳩が豆鉄砲を食らったようになっている。
月「やっぱり、知らなかったのか?」
高「知らなかった……」
霜「じゃあ、さっきのアイコンタクトの意味は……」
月「“助け出せ”、つー意味だろ? ――……」
そう言って月が、口角を吊り上げて笑う。
月と目配せを交わし、霜矢と高野は頷いた。
──今夜のオオトリ、ブラック オーシャンの人魚姫を目の前に、会場の盛り上りは最高潮……──
絵「キモチワルイッ最悪!! ……」
反対に、絵梨の盛り下がりも最高潮……──
そうして会場では、いつも通り競り合いが始まった。
──金額が膨らんでいく……
競り合いは激しさを増し、またしても、ここで取っ組み合いが始まった。
─―カンカンカン!!
B「またまた乱闘突入か? 金の競り合いだけじゃあ、どうにか出来るものでもねーッて事かい?」
会場を一度静めてから、ブルーソードが会場の面子に向かって、そう話し始めた。
B「ならいっその事、ルールを変更しないか? ──」
──ブルーソードの言葉に耳を傾けながら、静まっていた会場が、さらに深い沈黙に陥る。
―「どういう事だ?」
―「ならどうやって、競ればいい?」
会場から、疑問の声が響く。
B「競り合いはしない。人魚姫の額は50万でどうだ? ──人魚姫が欲しい奴は、名乗りを上げろ。喧嘩のトーナメント戦で、誰が人魚姫を買うかを決めようじゃないか?」
突如のルール変更だ。
こうして、人魚姫を買いたい者たちによる、喧嘩のトーナメント戦が行われることになった。
霜「喧嘩か。この勝負、もらったな」
高「勝ったら俺らが、50万払うのか?!」
月「絶ッ対払わねー!」
霜「人魚姫を買う権利を得てから、人魚姫の出展者と、やり合えばいいんだ(喧嘩)」
高「なるほど……」
霜矢たちも、会場の他の面子も、そして人魚姫の出展者たちも、それで納得したようだ。
会場の面子たちがルールを呑んだのを空気で感じ、ブルーソードは満足げにニッと笑った。
B「お前らやる気満々だな! じゃ、健闘を祈ってるぜ! ごゆっくりぃー!!」
そう言うとブルーソードは絵梨を連れて、ステージ裏へと戻って行った。
──そして会場では、乱闘が始まったのだった。
ブルーソードは満足げだ。だが絵梨は、不安げだった。
「トーナメント戦だなんて……大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫だ。案外、信頼出来そうな面子が助けに来てたしな! ……──駄目だったらその時は……また! 新しい方法を考えるさ!」
「……ポジティブ」
絵梨たちのいるステージ裏に、乱闘の音が響いてくる……──
「トーナメント戦が終わるまで、ゆっくりとしようじゃないか。座りな?」
ブルーソードが絵梨に椅子を引いた。
絵梨もその椅子へと座る。
「さて、どうせ暇なんだ、ゆっくり話でもしよう」
──そうして絵梨はトーナメント戦が行われている間、ブルーソードと会話をしながら待つ事となるのだった。
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