Episode 6 【スパイ】
【スパイ 1/4 ─ 2人のスパイ ─】
翌日、時刻は11時55分。
人通りの多い街の広間。
出来るだけ顔が見えないように、深く帽子をかぶった
あの電話で松村さんは、“他の輩を用意した”と言った。その人物に会う為に、指示された場所へとやって来ていた。松村さんはあの時言っていた……──
─―『**街**広間、大きな噴水がある広間だ。──君はその広間に行き、正午ちょうどに、帽子をかぶったまま、噴水の正面の、右隣に立て。
同じように、正午ちょうどに噴水の正面、左隣に、ソイツが来る。“サングラスをかけた男”だ。
お互いの存在を確認したら、そのまま真っ直ぐに歩いて行け。後は、ソイツが上手くやってくれる筈だ──』──
──時刻は11時59分……
正午ちょうどに、噴水の正面、右隣へ。……──緊張が走る。
噴水の近くへと行った。現在、噴水の後方右側。そして、時刻は12時00分……〝正午〟。私は小走りで、噴水の正面、右隣へと移動する。
数秒、じっとその場で自分の靴を眺めた。
そして、ドキドキとしながら、噴水正面、左隣にさりげなく視線を向けた。
大きな噴水、右隣と左隣で案外距離がある……
「…………」
さりげなく向けた視野が、噴水の左隣に立つサングラスの男をとらえた。
横顔しか見えないが、とりあえず、茶髪の髪の男。鼻はスッと高い。
見ていると、その男もこちらを少し向いた。〝お互いの存在を確認した〟。 すると、男がそのまま正面へと歩き出した。私もあわてて、真っ直ぐに歩き出す。
……男女の歩幅の違い。私はその男を見失わないように、チラチラと見ながら、少し早歩きをしながら、男の歩くペースに合わせた。
松村さんは、『後はソイツが上手くやってくれる』と言っていたが、一体、どこまで真っ直ぐ歩けばいいのか?
──真っ直ぐに歩き続ける。次第に、広間を抜ける。広間を抜けて、道へ入った。
私と男は、道の右端、左端を相変わらず歩き続ける。
人通りも随分と少なくなってきた。するとその辺りから、自然な流れのまま、徐々に男が私の方へと近づいて来た。
──その時、私の歩く右隣に、細い路地が現れる。すると……──
─―トンッ! ……
「ぅわっ……ッ?! ……」
ごく自然に、男にその路地の方へと押された。
思わず叫びそうになる私の口を、男が押さえた。同時に、転びそうになった私の体を男が支えている。
後ろから口を押さえられて、体を支える片方の腕が、私のお腹の辺りに回っている。
「んっ……!」
「……落ち着け。静かにしろ……」
頭上から、冷静な男の声がした。
「……んんー!! ……」
相変わらず、落ち着かなくて騒ぐ私。その理由は“この腕”。抱き締められているような状態だ。さらに、体が密着しすぎだ。落ち着けない。
口を押さえられながら、“離して下さい”って、私は訴えている。
「だからッ静かにしろ……!」
男に、小声で再度注意された。
「…………」
ようやく私は黙った。私が騒ぐから“放してくれない”、という事を理解したから。
すると、男がスッと両方の腕を私から引いた。
この細い路地は日当たりが悪いようで、少し暗めでじめじめとした空間だった。
ようやく私たちは、正面を向いて向かい合った。男がサングラスを外す……──
「…………え?」
正面を向いた私は、驚きを隠せない。
「「…………」」
「……。かっ髪の色、変えたの?」
「違う。これ、ヅラ」
「……?!」
男がそう言って、そのウィッグを取った。すると、きれいな赤毛の髪が現れた……―――
「白谷……雪哉……? ……ほっ本物だわっ! ……」
その人物とは、正真正銘、オーシャンの白谷 雪哉だった。
「だからっお前は声がデカイ! ……」
「……んんッー!! ……」
再び雪哉に口を押さえられる。そして同時に、片方の腕が私の背中に回る……距離が近い。
ごく自然に、またしても抱き締められているような状態になった。……どうやら、この距離や腕は、雪哉からしたら無意識らしい。
そうしてどうにか、口を押さえる雪哉の手を退けた。
「ちょっと! ……さっきから近いしっ! 気安く触れないで!」
「あ? ……あー、そんな事か」
「そんな事ってなによ! 雪哉! あなた、なんだかエロいのよ! 近よらないで!」
「エロいだと? ……もしかして、何か感じちゃったのか? ……」
「サッサイテー!!」
「…………。姉妹そろって俺にそんなこと言うのか? 泣いてもいい?」(冗談)
──そしてとりあえず、私たちはその路地を通って、場所を移した。
路地に突如現れた細い階段。その階段を上がって、ある建物の中に入った。
閉めきったカーテン。光の差し込まない部屋。
雪哉は入ってきた扉の鍵をかけた。
「この場所なら、おそらく安全だ」
雪哉のそんな言葉を無視して、私は閉めきられたカーテンを開いて、さらには窓を開けた。
「やっぱり、空気の入れ替えはしなきゃね」
「待てよ瑠璃!」
「ん?」
だが雪哉は、すぐにカーテンを閉じた。
「気安く窓を開けるな! 誰が敵なのかも、いつ襲われるかも分からねぇんだぞ! 言っとくけどな、俺といるって事は、お前だって危険なんだぞ」
「……ごめんなさい」
「分かればいい。座れ」
雪哉に促されて、ソファーへと座った。
今更ながら思うけど、松村さんが“用意した輩”というのが、白谷 雪哉というのは、どういうこと? 警察とブラック オーシャンじゃない……
「先に、聞きたい事があるんだけど……いい?」
「なんだよ? ……」
「どうして、あなたが警察側にいるの? ……」
「あの
「え? ……」
「俺、銃まで突きつけられたからな? あり得ないよな? とても警察だとは思えねー……」
「へー……気の毒だったね……」
松村さんは私に交渉した時も、『手段は選ばない』と言っていた。あらためて、松村さんのレッド エンジェルへの執念を感じる。
「……まぁ協力したら、今までの俺らの悪行に、目を瞑ってくれるらしい。それで、純たちとも話し合って……この結果だ」
「そこまでして、松村さんはあなたが欲しかったの?」
「あぁ。どこから嗅ぎ付けたんだか……
「得意分野って、情報収集? ……」
「まぁそんなところだ。俺は
「情報網って……あなた何者よ?? ……」
「「…………」」
雪哉はハッとして、自分の口を押さえた。
「「…………」」
「………もしかして、裏で糸引いたりしてるの? ……」
「…………」
「それってもしかして、主に……異性を利用するとか……? ――」
……なんとなく、そんな気がした。勝手な、私の勘だった。“そうじゃないか”って……前に考えた事があった。
──そう、ただの勘だったの。けれどそう聞いたら、雪哉が驚いた表情で私を見た。
「お前……どうして、それまで知ってるんだ? ……――」
「「…………」」
頭の中に、何かの衝撃が走った気がした。
『そういう奴なのかな……――?』──そう言って、悲しそうな表情をした、絵梨の事を思い出した。
緊迫した空気……――言っては、いけない事だったのかもしれない。
「……――けど、善しとするか……松村からお前を任された時点で、お前には、言わざるを得ないと思ってた。自分で言う手間が省けた……」
緊迫した空気が、少しづつ柔らかくなる。ひとまず、安心した。……
「誰にも言うなよ? ……――それは、一握りの人間しか知らない事だ。聖たちを例外にした、オーシャン、マーメイドのメンバーにも極秘だった」
……そうだ。この事を、絵梨さえも知らない。
それは、絵梨が苦しみながら、どんなに探しても、たどり着けなかった真実だった。
この真実を絵梨に伝えてあげてほしかった。そしたら、絵梨は少しは楽になれると思う。
「雪哉、絵梨には言っても良いんじゃない? ……」
すると再び、空気が重くなる……
「ダメだ。お前も絶対に言うな!!
「…………」
絵梨を話に出したら、雪哉の雰囲気がいきなり変わった。威圧感……少し怖い……
「ど……どうしてよ!! 私知っているんだから! ……あなた、絵梨の事が好きなくせに……」
「「…………」」
「……アイツに、余計な情報は与えない。極秘の情報なんかを話したら、ますますアイツは、この世界に巻き込まれる」
「…………」
「俺が絵梨を巻き込んだんだ。もう絵梨を、危険にはさらさない……」
「そんな……だからって、このままじゃ絵梨が可哀想で……」
「可哀想も何もねぇよ……──だいたい、絵梨はこの事件からも、“俺からも”、離れたがってた」
え? ……『俺からも』? ……
「ちょっと待ってよ……『俺からも』って何よ? ……」
「言葉の通りだ」
「ウソでしょ?! 何が情報網よ! ホントにあなたにそんな事が出来るわけ?! 鈍いにも程があるわ!!」
「何だよ…? 失礼な女だな……──ナメんなよ。女使って情報収集するのは、得意分野だって言っただろう……」
「だって! 信じられない! あなた鈍感じゃない!」
「鈍感じゃねぇーよ!」
「鈍感よ! あなたバカよ!!」
「バカだと?! お前、調子乗りすぎだ!!」
「バカよっ!! ……──だって絵梨は……あなたの事が……大好きなのにっっ!! ……――」
……――――感情的になって、とっさに言ってしまった。
言った方が良かったのかもしれないけれど……絵梨の気持ちを話してしまった事を、申し訳なくも思った。
こんな感情的になってしまって、私は大人げない。私が恥ずかしくなってしまって、俯いた……―─
「……っ……――んな訳、ねぇーだろ……――」
俯く私の耳に、躊躇うような雪哉の声が聞こえた。
顔を上げると、何人もの女を虜にする、女慣れしている筈の男が、困惑した表情で顔を赤く染めていた。──これは明らかに、絵梨にしか出来ない事だった。
「そんな訳ねぇーよ……」
否定するくせに、顔が赤い。
「「…………」」
雪哉は片手で自分の額に触れた。
「ダメだ……――――調子狂う。……いいから、話しを戻す……」
「ちょっと……!」
雪哉は話を元に戻そうとする。
「話の途中よ? 絵梨の気持ちを知ったのに、悲しむ絵梨を、放置する気じゃないでしょうね? ……」
私の表情は、自然と気難しくなっていたと思う。
あんな絵梨、見ていられないの……他の人を勧めてみても、絵梨は悲しい顔をするだけだった。絵梨には雪哉が必要なんだ。
「……その話、ホントかウソか知らねーけど……だからって何が変わるんだ? 俺はもう、絵梨を巻き込んだりしない」
そうだ……雪哉はさっき、そう言っていた。確かに、巻き込まない為に絵梨と関わる事を止めたなら、絵梨の本当の気持ちを知ったところで、何も変わらないのかもしれない……
雪哉は呆れた表情を作った。
「だいたい、お前、可笑しいだろ……俺は年中、女タブらかしてるような男だぞ? こんな男に妹を任せようとする姉なんか、普通いないだろ……」
「……だって! それはただの役目でしょう? あなたはきっと、本当はそんな人じゃない……絵梨とあなたは、本当はちゃんと想い合ってる……」
「お前、ずいぶん美化したこと言ってくれるな? どんな奴でも分かるぞ? 俺みたいなのを“サイテー”って言うらしい」
雪哉は可笑しそうにフッと笑った。
「サイテーなんかじゃない! ……絵梨のところに帰って来てよ!」
結局また、感情的に騒ぐだけの私。
絵梨ごめんね……説得出来るような上手な言葉が、出てこない。
「へぇ? 面白いこと言うんだな……――」
……なに? また雪哉の瞳が変わった。なんだか、冷たいような……悲しいような……瞳。
すると雪哉の片手が、私の手首を掴んだ。
「……何よ……? ――」
雪哉は何も話さない。
そしてその掴んだ腕を、強く引かれた。
「ちょっと……ゆ……雪哉?? ……」
近くなった距離に、背中に回った、雪哉の片腕。……
なんだか困惑してきた。…… いきなりなに? ……
「雪哉?? ……放してくれない?? ……――」
「お前の口から、もう綺麗事が出ないようにしてやる……――」
「……はい?! ……ちょっと待ってよ! ……あんた何するつもりよ! ……」
……そして雪哉は有無を言わせず、私をソファーに押し倒した。
「待って……待ってよ! ……雪哉?! ……落ち着いてよ! ……」
落ち着いてないのは、どっちなのかも分からない……
両手は掴まれている……
心臓が……バンクバクンと跳び跳ねるような動きをしている……
混乱状態で、定まらない私の目……
ようやく焦点を合わせる……すると、冷たい目をした男が、私を見ていた。驚くくらい……綺麗な顔立ちをした、男――
──そう、雪のように冷たい瞳。雪のように……美しい容姿……―─――
「ねぇ……冗談だよね? ……まさか、そんな事しないよね……?? ……」
けれど、雪哉が意地悪そうに笑った。
「今まで俺の話、何を聞いてたんだ? 言っただろうが。……俺はこんな奴だからな?」
──熱い舌が、首筋を舐めた……
「……っ……―――!」
どうしてこんな事になっているのか、頭が理解出来ずにいる。
ただ、固くギュッと目を閉じて、舌の感触に耐えている……
ウソでしょ……? 姉の私とこんな事したら、あなた本当にもう、絵梨に合わす顔なんてなくなるじゃない……
私だってそうだ……絵梨に合わす顔がない……そんなのヤダ……私、絵梨のこと大好きなのに……ヤダ……絵梨に嫌われちゃう……ダメよ……そんなのじゃ、私まで、絵梨の前からいなくなる事になる……
──胸元に、唇があてられる……――――
「ィヤっ……やめてよっ!! …………――」
すると、雪哉は私の胸元から、スッと唇を離した。同時に身体の密着も解ける。
「……――」
私は睨み付けるように、雪哉を見た。
─―シャラン……――
雪哉の服の中に隠れていたネックレスが、小さな音を立てて服の中から滑り出た。そのネックレスが、私の上でフラフラと揺れる……――鳥の羽根の、ネックレス……――
雪哉を睨み付ける。
雪哉は表情一つ変えずに、私を見ている。
少しの間そうしてから、雪哉はスッと私の上から退いて、向かい側のソファーへと座った。
「ダメだ。調子狂う」
雪哉は平然と、普通にそう言っている。
私はソファーから体を起こした。 まだ、心臓がバクバクしてる……
「『調子狂う』じゃないわよ! 何て事するのよ!!」
「は? 何もしてねぇーだろ? 少し舐めただけだ」
「舐めたじゃない!」
「何かしたうちに入らねぇーよ」
「うるさい! 何のつもりだったのよ!」
「お前が美化したこと言うからだ。身をもって理解させようとしたんだが……調子狂った。……俺、嫌がる女を抱いた事はねぇーんだ」
「ハァ?! 絶対に嘘よ!! 恋人でもないのにっ大抵の人は嫌がるわよ!!」
「失礼だな? 別に嫌がられねぇーよ。……俺はな」
当たり前、という顔で言う雪哉。この男、危険すぎる……
「それでだ、瑠璃……レッド エンジェルの元へお前を送り込む前に、確認したい事がある」
「…………」
あっさりと本題に突入された……。
絶対に、そのうち絵梨と、寄りを戻させてやるんだから! ……けど、今日のところは私の負け……私も大人しく、本題に入りざるをえない。
「なぁ瑠璃? お前……──セフレ何人いるんだ?」
「…………はい?! ……」
……──この男は、いきなり何て質問をするのだろう?
「恥じらうなよ……答えろ」
「……いっいないに決まってるでしょ……私、彼氏いるし……」
「今までに一度もいないか?」
「…………うん」
私、どうしてこんな話を、雪哉にしているの?!
その前にこの話、本題に必要な話ですか?!
「……やっぱりか。さっきも嫌がったもんな」
それは嫌に決まってる……相手が雪哉だったから、余計いけないって思った事もあるけど……
「こんな話、必要なの……?」
「必要。──じゃあ瑠璃は、好きな男としか、したことねぇってことだよな?」
「……うん」
「すごく心配だ……」
雪哉は表情を歪める。
何故だが、真面目に心配されているみたい。
雪哉も、私と同じ長ソファーへと座り直した。
一応、少し警戒する私……
「真面目に心配だ……お前は、俺を見習う必要がある」
「…………見習いたくないです……」
私の長い髪を、指でクルクルと弄ぶ雪哉。
──ここへきて私は、雪哉がどうして、そんな事を聞いたのかが分かった。レッド エンジェルへスパイとして入り込むなら、使えるものは使う。身体が一番手っ取り早いって、つまりそういう事。
私だって、そのくらいのこと分かっている。私が好きでもない男に、身体を差し出せるか、雪哉はそのことを心配している。
けれど、雪哉を見習うのは、少し抵抗がある。……とんでもなさそうだから。
でも、心配してもらっているだけ、ありがたいのかもしれない。私も不安だから。
……覚悟はしていても、そうなった時に、私は本当に大丈夫なのか……役目を果たす事だけを考えて、悪い女になりきる事が、出来るだろうか?
雪哉が、心配そうに私の顔をのぞき込む。
「大丈夫か? ……」
「平気よ。覚悟してある……」
雪哉がため息を吐きながら、私の頭を撫でた。
「それは平気って顔じゃない……。──さっきの続きしないか? 練習だ。俺が抱いてやるよ」
好きでもない男に、身体を差し出す練習……
確かに、一度抱いてもらった方が良いのかもしれない。一度、好きじゃない人と交わってしまえば、抵抗がなくなるかもしれない。……
「……ありがとう。でも相手が雪哉じゃ……絶っっ対! ヤダな……」
「俺、どれだけ嫌われてんだ? ……」
嫌っている訳じゃない。私は絵梨の姉だからって意味。それにきっと、雪哉だって本当は、私を抱きたくない筈……“私が絵梨の姉だから”。
「まっったく! 瑠璃、意外にワガママだな……」
「だって、雪哉は絶対嫌よ」
「二度言うな! 誰なら良いんだ! 言ってみろ」
「……分かりません」
「俺を断った時点で、選択肢はあと三人だからな?」
「……嫌な予感がする」
「純か陽介か聖だ」
「やっぱり……」
「選べ」
「えー……」
「最近ロリコンな純の目を、覚まさせてくれたってかまわねぇ……──お前に気のある陽介を、本気にさせちまってもかまわねぇ……──
「遠慮します……覚悟してあるから、大丈夫」
「…………」
しっかりとした目で、雪哉を見た。“心配いらないから”って……
そうしたらなんとなく、雪哉にも伝わったものがあったみたい。雪哉は『分かった』とだけ言って、適当に私の頭を撫でた。きっと、“がんばれ”って意味。
「私はどうやって、レッド エンジェルと接触すればいいの?」
「瑠璃の場合、偶然を装おって接触した方が良い。そうすれば、向こうから瑠璃を連れて帰りたがる」
「あなたは、キャットとの連絡手段を持っている……そうなると偶然を装おって、私がキャットと接触するように仕向けるの?」
「……それが一番、楽だったんだが……」
雪哉がしぶしぶと何かを取り出して、私に見せる。 それは、二つのスマートフォン。一つは、男の人のって感じのシンプルな雰囲気で、もう一つは可愛い要素があるから、多分女の人のスマートフォン。
「これがなに?」
「こっちが俺の……こっちが、
「つまり、キャットと連絡が取れないわけね……」
どうして雪哉が、キャットのスマートフォンを持っているのかを聞いてみたところ……──
どうやらパーティーの最中で、二人のスマートフォンが、すり変わってしまっていたらしい。雪哉がキャットのスマートフォンを。キャットが雪哉のスマートフォンを。という状態。
雪哉はキャットが
スマートフォンは個人情報の塊。キャットのスマートフォンがあれば便利だと思ったが、肝心なところはロックだらけであり中身の確認に手こずらされた挙げ句、そもそも、スマートフォンには、有力情報の欠片も記録されていなかったそうだ。用心しているみたい。──そしてそれは、雪哉も同じ。だから、スマートフォンがすり変わっても、お互いの利益は得に何もなかったらしい。
「じゃあ、どうやって接触すれば良いのかな……」
「お前が悩む必要はない。 今俺は、レッド エンジェルの本拠地を調べている。 そこが分かったら、上手く接触すればいい」
何から何まで、雪哉にやってもらってる。やっぱりこの人、すごい人かも……
「本拠地が分かるまで、私は待機?」
「ちょうど、今夜でつきとめ終わる予定だ」
雪哉が得意げに笑った。そして、雪哉が説明してくれる……──
毎夜毎夜、情報収集を繰り返し、ようやく目的の人物の情報を掴んだらしい。そして今夜、その人物との接触をはかる。
雪哉の話によると、その人物とは、レッド エンジェルから逃れた人らしい。つまり、元レッド エンジェル。正体を隠しながら暮らしているみたい──
****
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