第12話

「でもさぁ、小里さん」


「へ?」




同じクラスとはいえ、今まで何の接点もなかった私の苗字を、香月雅は覚えていた。さすが余念がないというか。どんな女子に対しても手を抜かない執着さえ感じる。




「……今、俺の悪口を考えてたでしょ」


「なんで分かっ、あ……」




しまった!

慌てて口を押さえるも、香月雅は「まぁいいけど」と流してくれた。


……いいんだ。




「それより。さっき小里さんが言ったワルい男って、俺の中で全然ワルくないんだけどな」


「へ?」


「むしろ――」




グイッ、肩を抱かれる。一気に近くなった距離をものともせず、香月雅は私の顔を覗きこむ。




「俺の方が百倍ワルい男だよ?どれだけワルいか、経験してみる?」


「……っ」




するわけ、ないじゃん。


出掛かった言葉を、なんと、香月雅が押し戻した。私の唇にキスするフリをして。




「――ッ。ち、近い」


「強情な小里さんには、言い方を変えようか」




ペロリと、自分の唇を妖しくなめる香月雅。それを間近で見せられると、無意識に上唇がピクンとはねた。


香月雅が自分の唇をなめただけで、まるで操られたように反応してしまうなんて……やっぱり、この男は危険だ。



はやく逃げなきゃ――!

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