第10話

「わ、私、帰る……!」




誰に向けての宣言か……きっと自分だろう。ヘビに睨まれたカエルになった自分に喝を入れ、今も頭で鳴り続ける警鐘に耳を澄ませた。


そう、逃げた方がいいんだ。

こういう男は、きっと危険だから。

危険な香りがするから。


だから逃げるに限る。




(私は、姫岡さんみたいになりたくない)




彼氏には自分を特別視してほしいし、大事にしてほしい。そして愛してほしい。


だから間違っても「他の女子と接触するなって言うなら別れて」なんて言う男とは、付き合わない――



って思っているのに。



この香月雅を前にすると、なぜか弱気になる自分がいる。


物理的な距離だけでなく、心の距離も一気に詰められる感覚。心の準備が出来ていないのに、堂々と上がり込んで来るスピード感。


これは……ダメだ。



これ以上一緒にいたら、のまれる。



パシッ




「どこの行くの。話、まだ終わってないよ?」


「は、話って……っ」




始まってもいない話を、あたかも存在するかのように言っちゃうあたり。逃げる私を、まるで非難するような口ぶりで話すあたり。


やっぱりこの男は危険だと、優しく握られた腕から感じる。

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