第28話

「詩音。帰りたくないか。

家は、父さんとおじさんが居てくれるから

落ち着いてから帰ろっか。歩ける?」


「うんっ、うんっ………グスッ……あるける…。」


「ん。偉いね、詩音。

莉音もおいで。よく頑張ってきたよ。

いいんだよ、いいんだよ、泣いていいの、莉音も詩音も。我慢する必要ないんだよ。」



優音兄の腕の中は、温かかった……。



あとから聞いた話。


消化器外科の医者。

メインの仕事は外科手術が多いけど

ガン患者の化学療法も担当している。

亡くなってしまう人も居ると…胸が痛むと言っていた。


皮肉にも、お父さんも―――………

消化器の癌だった。すい臓がん。


発見された時は、完治は不可能だった。



一緒に暮らしてきたわけではないけど

実の父親の病気が、自分の担当分野で、

助かる見込みが低いと気付いた時―――………


優音兄は、何を思ったんだろう―――………



「莉音、詩音。ドライブしよう。

妃響は申し訳ないんだけど、翼さんか誰か呼んで…村瀬家に先に行っててくれないか?」


「了解。自分の車できてるし、そのまま向かうわ。莉音、詩音。存分に甘えて、泣いてこい。」


『………うんッッ………』



そう言って、ひいにいと別れる。



ひいにい―――……ありがとう。


逃げようとしていた僕の傍に居てくれて。

嬉しかった。ありがとう―――……

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