序盤のボスキャラに転生した件
ねうしとら
第1話
異能と呼ばれる超常現象が当たり前のように存在するこの地球にて、前世とはまた違った歴史を歩んできたとは言え同じ日本に生まれることができたのは、素直に喜ぶべきことだろう。
だが、できることならば赤子の時から前世の記憶を持っておきたかった。もしそれが叶っていたのであれば、今頃こんなに焦る必要もなかったというのに……。
この世界は、俺が前世でプレイしたゲームと全く同じ世界観を共有している。あるいは本当にそのゲームの世界なのかもしれない。『宵の明星』と題されたこのゲームは、主人公である
唐突に連絡が取れなくなり行方不明となった月夜に違和感を覚えた宗一は、彼なりに幼馴染の行方について調べていた。そんな中、月夜が行方不明になる直前にいたであろうとされる公園に足を運ぶと、そこには奇妙に発光する水晶のようなものがあり……。
というのが大まかなあらすじだ。ジャンルは現代ファンタジーと言ったところか。それから、宗一はその水晶を拾う。その途端、眩い光に包まれると手に持っていたはずの水晶はまるで移植されたかのように心臓付近に同化することになった。
そして、厄介なのはその水晶がとんでもない厄ネタ持ちだったと言うことだ。
この世界には前世にはない『アルケー』と呼ばれるエネルギーが存在しており、これが生物無生物問わず宿ることで異能力に目覚めることがあるのだ。……適応できなければ化け物になるが。
宗一が手に取った水晶は、『アルケー』が宿り異能の力を内包した水晶だったのだ。原因は一切分からないがなぜか宗一と同化することで宗一が異能力を行使することができるようになった。
さらに不幸なことに、その水晶は『神具』と呼ばれる能力者の中でも最上位に位置する力を持っていたという所にある。『アルケー』に完全に適応できたものは生物であれば『
原作で明かされている偽神並びに神具の総計は8柱。そして、その全てが各国政府によって厳重に管理されている。人間だろうと何だろうと好き勝手に力を扱われないように、人権なんて一切合切無視して一生眠っていて貰っているのだ。
『神具』と一体化した宗一は、『偽神』として扱われ日本政府からは秘密裏に指名手配されることになる。本来ならば指名手配などという遠回りな手を使わず、状況がよく分かっていない『偽神』本人にあれこれ耳ざわりの良い条件を突き付けて政府が保護という名の監禁を施すのだが、幸か不幸か、宗一は偽神となった直後にとある人物に出会うことになる。
それが、非合法異能力者組織である『迷い人』の構成員、
言葉にすることも憚れるくらい過激な思想の持ち主だっているし、『アルケー』に適応できなければ自我を失って化け物になる可能性すらあるのだから恐怖の対象になるのは自然だが、そのせいで社会で普通に生きていけなくなった人もいる。
そんな人たちの寄り合いとなっているのが『迷い人』という組織の全容だ。白亜はその組織のリーダーを務めている人物である。
まあそんなわけで、偽神を仲間に引き入れた迷い人は政府から危険視されるにいたるわけだ。とは言え、色々とイレギュラーが重なった宗一は自らの力を100%引き出すことは出来ないのだが。
さて、ならば俺は一体何者なのか。そんな疑問が聞こえてくる頃合いだろう。
俺こと
仲間に引き入れると言ったら聞き心地は良いが、行ってしまえば武力行使による誘拐である。
『始祖の篝火』の連中は、宗一を拉致して自分たちの考えを布教できれば必ず仲間になると信じて疑っていない愚かな連中だ。異能力者こそが真の人類だと信じて疑わないカルト集団である。
プロローグを兼ねているストーリー第一章にて、俺たち『始祖の篝火』は宗一を手にするために『迷い人』と敵対する。
その最中、俺は宗一と直接戦闘する第一章のボスキャラとしてのポジションがあるのだ。
ストーリー通りであれば、俺は宗一たちとの戦闘に負け、遅れてやってくる『異能犯罪対策局』によって身柄を拘束されることになる。
俺としては前世の記憶を思い出して冷静になった現在、牢獄送りの未来は勘弁願いたいと考えているのだがなんとも間の悪いことに目の前には警戒を怠らない男女ペアが俺に向かって鋭い目つきを突き付けている。
そう、本作主人公の葉佩宗一と『迷い人』所属の少女
第一章も佳境に入ってきた頃合いだな!
……現実逃避もこのくらいにして、まあそうだ。俺が前世の記憶を思い出したのは主人公をこの目で見た瞬間。つまり、絶体絶命の大ピンチというところである。
選択を一歩間違えたら俺は豚箱一直線だ。流石に記憶を取り戻してすぐに自由を失うのは嫌だ。
まるで、赤点ギリギリを攻めているテスト中の2択問題を運任せに解いている時のような絶妙な緊張感に襲われている中、目の前の少女がその驚異的な身体能力を駆使して俺へと勢いよく距離を詰めてくる。
『アルケー』に適応した人間はそのエネルギーを自在に操ることで身体能力を極限まで高めることができる。
人間をはるかに超えた速度で一瞬にして詰められた距離に俺は少し驚きつつも、次の一手である少女の蹴りを後ろに飛ぶことで回避する。
「能力者にしては身体強化が疎かだな」
なんて挑発をしてみる。会話をしてくれるのであれば多少時間を稼いで考える時間を増やせると思ったからだ。
「うるさい」
目の前の少女は不愉快そうにそう答えた。
俺がやるべきことは2つだ。この場をなあなあにして離脱すること。そして、宗一に己の価値を自覚させることだ。
この第一章のエピソードは主人公である宗一を中心に話が進められている。このストーリーで大事なことは、よく分からないまま異能の力に目覚め、あまつさえ『偽神』としての力を手にしてしまった元一般人である宗一に、己を狙う明確な敵対者がいることで宗一の立場という物を自覚してもらうことにある。
この章を経て、宗一は今後は自分を大切にすることと無闇に一人で外出しないと言うことを決意するのだ。
ここを疎かにすると今後俺が持つ『原作』の知識が通用しない可能性がある。
つまり、俺は宗一に危機感を抱かせつつ何とかしてこの場を離れることが求められているのだ。
やるべきことが定まった。目標は対策局が来る前に宗一を脅しまくってから離脱することだ。
「その宝玉。ここから見るだけでもアルケーの濃度が半端じゃない。恐らく神具だろ」
「だったらなに」
「なにも何もない。神具と一体化しているのならそいつは偽神になる。何故か知らんが力を十全に扱えていないようだが、偽神は偽神、そいつを手に入れさえすれば世界征服だって夢じゃない」
極めて悪役っぽく振舞うことで宗一自身の状況を簡潔に説明しつつ脅しをかける。
俺の脅しが効いたのか、奏は極めて険しい顔つきになった。うむ。上々上々。このまま時間を稼いで対策局が来たことを理由に立ち去ってやろう。
「……『偽神』や『神具』についての情報は政府によって秘匿されている極秘情報であるはず。なんでアンタなんかが知ってるわけ?」
…………やらかした。
そうだった。『迷い人』はリーダーの白亜が元対策局員だったから知っているだけで、普通俺のような下々の人間が知っているような情報じゃなかった。
やっばい。これ俺のことが得体のしれない人物として最高レベルの警戒対象になった可能性があるな?
「……さて、そうだったかな?まあそれはどうでもいい」
まあ白々しいが、一応しらばっくれてみる。
全然だめです。警戒なんて解かれるどころか強まってるよ。
RTAなら即刻リトライ案件なガバを犯してしまったが、俺が今プレイしているのは人生という名の神ゲーでありクソゲーだ。もちろんコンティニューは不可である。
俺の致命的なやらかしのせいで俺に対する警戒レベルが一気に引き上げられたが、実力的には今の俺はあの二人に敵わない。
というか、俺が勝ってはダメなのだ。遅れてやってくる対策局の人間にとっては俺だろうが目の前の二人だろうが確保対象。そうなってしまうと色々とまずい。
幸いにも今のガバのせいで慎重になった奏は攻めてこない。
このままじわじわと時間を稼いで……おッ。
「……対策局の連中か。全く余計な横やりを」
捨て台詞を吐いてまるで噛ませ犬のように颯爽とこの場を去る。まあ実際噛ませ犬なんだがな。
『アルケー』によって強化された身体能力のおかげで素早くこの場を離れる。多分、迷い人との抗争によって始祖の篝火は壊滅しているだろう。
これからどうするべきか。多分表社会では生きていけないし、かと言って迷い人には警戒されるだろうし、行くとこなんてもう一つしかない。
暗黒街。社会で疎まれた異能力者を受け入れて面倒を見ている異能力者のための相互扶助が成り立っている地域だ。そこに行って身を潜めるくらいしかないだろう。
うーん。人生踏んだり蹴ったりだけど、ファンタジー世界っていうのはちょっとワクワクするね。
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序盤のボスキャラに転生した件 ねうしとら @abyunappua
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