第62話

(か…可愛い…?って…?!)


雅耶はびっくりして、思わず部長の横顔を凝視ぎょうししていた。

それに気付いた部長は、


「ん?ああ…そういう奴なんだよ、あいつ…溝呂木は」


アブナイ奴なんだ…と、苦笑いする。

その向こうで、別の先輩が笑って言った。


「そ!いわゆる美少年好きってやつだよな?」

「…だな」


部長は肩をすくめてみせた。

その時、突然「おおっ!!」とギャラリーの中で歓声が上がった。

慌てて裏庭に目を向けると、冬樹に襲い掛かっていた柔道部員が地に仰向けに倒れていた。


「やるじゃん、あの一年!投げたぞっ」


(ホントにっ?今冬樹が投げたのかっ?)


部長と話していた雅耶は、その瞬間を見逃してしまった。

だが、一瞬冬樹が何か声を発したのは聞こえたのだが。


「見そびれちゃったな…。でも、やっぱり柔道経験あるみたいだな。尚更、溝呂木が欲しがるワケだ」


部長が感心しながら言った。






(くそっ!制服が傷んだらどうしてくれるんだっ)


冬樹は体勢を立て直すと、ブレザーの襟元を気にしながら服装を正した。

地に倒れた柔道部員は、まさか…という顔で投げられたまま固まっている。

だが、溝呂木は予想通りという感じで満足気に微笑んだ。


「やってくれるね。でも、こうでなくちゃ面白くない。どんどんいくよ」


その言葉に、冬樹はゾッとした。


「いー加減にしてくれよっ。オレ、本当に柔道なんてー…」


『分からないのに』…と、続けたかった言葉は、溝呂木の


「次っ!芦田あしだ、行けっ」


…という、部員への指示の声で発する事が出来なかった。

太めの大男が前に出てくる。


(うわぁ…勘弁してくれよ…)


流石に、この巨体を投げるパワーが自分にあるとは思えなかった。

捕まった瞬間に、簡単に何処か遠くへ放り投げられてしまいそうだ。


(あの手に掴まれたらアウトだ。それこそ逃れられない…)


冬樹は必死で距離を取った。


その焦っている冬樹の様子を。

溝呂木は、さも嬉しそうな顔をして眺めているのだった。


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