第61話

「何?あの一年、久賀のダチなの?」


部長が雅耶の呟きに気付いて聞いてきた。


「あ…はい。そう、です」

「そっか。気の毒だなー。厄介な奴に好かれちまったなぁ」


しみじみと話す部長の言葉に。


「えっ?それってどういう…?」


言っている意味が解らず雅耶が聞き返すと、部長の横にいた他の先輩達が外を眺めながらも口々に教えてくれた。


「あいつだよ、溝呂木。ドS教師!!」

「あの嬉しそうな目…見ろよ。生き生きしてやがる。怖ぇー」

「キモすぎだよなー。ゾッとするぜ…」

「あ…あの先生が…?」


(ドS!?…って…。冬樹っ!!)


雅耶は冬樹の様子を心配げに見詰める。

殆どイジメのように上級生に周囲を囲まれていて、ただ勧誘をうながす為にしては確かに度が過ぎているようにも思う。


「あいつ柔道部の顧問でさ、二年の体育もあいつ担当なんだけど、気に入った生徒をいたぶるのが好きっていう…ちょっと厄介な奴なんだよね」


(いたぶる…って…。先生がそんなんで良いのかっ?)


流石に疑問が浮かぶ。


だがそんなギャラリーが集まる中、噂の教師が「お前ら、気張って行けよ!」…と、突然大きな声を上げて、合図のように手を叩いた途端、一人の柔道部員が冬樹に襲い掛かった。


「おっ!何か始まったぞっ!!」

「一本先取とかって言ってたぞ。すげーな、もしかして総当たり戦かっ?」

「おいおい…流石にそれは鬼畜すぎだろっ」


空手部の先輩達は興奮気味に見ていたが、一方の一年生達は自分達の部の顧問がそんな教師でなくて良かったと、誰もが心の中で安堵あんどしていた。


(総当たり戦?柔道で!?冬樹…柔道なんか出来るのかっ?っていうか、出来てもあんな数の先輩達相手じゃ…)


ハラハラして観ている雅耶の横で、


「お前のダチって柔道強いの?」


当然の疑問を部長が口にした。


「いや…俺もよくは知らないんですけど…でも…」


大きな部員に制服の襟元を掴まれて、ガクガクと振り回されている(ように見える)。


「でも、溝呂木があんな強硬手段に出るなんて、よっぽどだと思うぞ?ただ『可愛いから』とかだけじゃないと思うんだが…」


その何気ない部長の言葉に、雅耶は固まった。


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