第60話
「何にしても…もうこれ以上の譲歩はないよ。諦めて入部届を書くか、先輩達と戦うか。…どうする?」
溝呂木はさっきからニヤニヤと笑顔を浮かべているが、対照的に柔道部の上級生達はずっと無言で冬樹を取り囲んでいる。
(なんか
どのみち、どこの部にも入る気なんか無いけれど。
「絶対入部なんかするもんかっ」
あくまでも強気な態度で冬樹は言い放った。
だが、溝呂木はそれを待っていたかのように満足そうに微笑んだ。
「ふふふ…そうこなくっちゃ。勝負は一本先取だよ。お前ら、気張って行けよ!」
そう言うや否や、手をパンッと叩いた。
すると、途端に取り囲んでいた上級生の一人が冬樹に襲い掛かって来る。
「ちょっ!?いきなりっ?」
突然の事で油断した冬樹は、がっしりと制服の左襟元を掴まれて体勢を崩しそうになる。
「ちょっと!!制服がっ!!」
相手は道着を着ているが、こちらは制服だ。
右袖までも掴まれそうになって、たまらず払い除ける。
その間にも大きな右手が力一杯グイグイと襟元を握り締めてくる。
(くそっ!まだ新しいのにっ)
冬樹はカッとなって、掴まれている相手の右手を中心にくるりと向きを変える要領でそのまま相手の
「シワになるだろーがーーーっ!!」
そう叫びながら、思いきって背負い投げた。
そして、ドサッ…という音と共に、相手の柔道部員は地に仰向けに倒されていた。
空手部の先輩達が群がって見物していたのは、柔道場ではなく何故か外だった。
道場棟への二階通路部分の大きな窓から皆乗り出すようにして裏庭を眺めている。
雅耶達一年も見える位置まで移動すると、すぐ目の前で繰り広げられているその光景を目にした。
だが、誰よりも驚いたのは雅耶だ。
「えっ…?ふゆ…き…?何で冬樹がっ?」
何故、こんな裏庭で柔道部員に囲まれているのだろう?…という疑問と。
あいつは、あのまま帰った筈じゃ無かったのか?
人を壁にして、とっくに逃げたハズ。
意外に根に持っている雅耶だった。
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