第59話

ところ変わって、本格的に部活動が始まり活気づいている空手部道場。


そこに雅耶はいた。


今年、空手部へ入部した新入生は全部で13名。

多いか少ないかは微妙な所だが『武道』という特性上、経験者ばかりが集まっていて、即戦力として頼りになりそうだと上級生達は喜んだ。

その為、他の部が新入生スカウトに出回っている中、空手部は特に部員収集をする程困ってはおらず、今日から新入生も交えて練習に取り組み始めていた。

自己紹介や説明なども交え、練習を始めて間もない頃、遅れてきた一人の上級生が興奮気味に道場に入って来た。


「おいっ!柔道部が何か面白いことになってるぞっ!!」


そうして上級生達の間で何やら話していたが、今まで練習の指示を出していた部長が、


「ちょっと休憩にしようっ!!休んでても構わないし、少し自由にしてていいよ。何か柔道部が盛り上がってて面白そうだから、一緒に来たい奴は来てもいいぞっ」


そう言って、上級生達は皆出て行ってしまった。

残された雅耶含む一年生は、お互いに顔を見合わせていたが、やはり何事か気になり、先輩達について行ってみることにした。





『この先輩達を相手にして、勝ったら諦めてあげるよ』


そんな一方的な条件を呑む義理はこちらには無いのだけれど。


(そう簡単には、逃してくれそうもない…か…)


冬樹はどうしたらいいか考えていた。

普通に柔道の試合などをして、このいかつい集団に勝てる訳がない。それ以前に、ルールさえ知らないのだから。


「言っとくけど、オレ…柔道なんて経験ないですよ」


冬樹が睨みつけながら言うと、溝呂木はわざとらしそうに驚いた表情を見せた。


「そうなの?あんなに綺麗な一本背負い出来ちゃうのに?…でも大丈夫!負けてくれて構わないから♪」


(コノヤロウ…)


そして、嬉々として言葉を続ける。


「そんなの入部すればいくらでも教えてあげるよ。手取り足取り…ね。こちらとしても、お前のような子相手だと教え甲斐があってイイね。本当に楽しみだよ…」


勝手に盛り上がっているその溝呂木の言葉に、異様な危機感を感じて、冬樹はぞわぞわしたものが背筋を這い上がっていくような感覚に襲われた。


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