第58話

「オレはどこの部にも入らないって、さっきも…」


そう冬樹が言葉にすると同時に、溝呂木はくるりと振り返ると「…じゃあ仕方ないな」と、意味深に笑って言った。

そして突然、手をパチンッと大きく打ち鳴らした。


「……えっ?」


何の合図だ?と、いぶかしげに冬樹が思った瞬間、周囲から沢山の上級生達が出てきた。

皆が柔道着に身を包んでいる。


(…もしかして、ハメられた!?)


瞬時に警戒を見せる冬樹に、溝呂木は笑みを深くして言った。


「お前みたいな子が柔道部来てくれたら嬉しいんだけどなー。意志が固そうだから強硬きょうこう手段に出させてもらうよ」

「………っ」


周囲をガッチリと隙間すきまなく囲まれてしまう。

教師までグルだとは流石に思っていなかった冬樹は、不機嫌一杯で溝呂木に向かって言った。


「生徒をだましてまで勧誘だなんて、随分いい性格してますね」

「裏門があるのは本当だよ。この先に行けばすぐ出られる筈だ。でも、その前に寄ってって欲しい所があるんだよね」


そう嬉しそうに笑って、指で示したのはすぐ真横の建物だった。


「まだ校内を把握はあくしていないみたいだから教えてあげるけど、ここが道場とうだよ。柔道場をはじめ、剣道場や空手道場なんかもここに入っているんだ」

「オレはそんな所に用はない」


強気で反発する冬樹を、溝呂木は楽しそうに眺めると、


「でも、こちらは用があるんだな」


そう言って腕を組んだ。

そして、どこか考える素振りを見せると、


「うーん…無理やり強引に入部届書かせちゃうのが本当は手っ取り早いんだけど…」


と、物騒なことをぶつぶつ呟いている。


(おいおい。そんなことがまかり通ってるのか…?この学校は…)


まだ始まったばかりだというのに、この学校を選んでしまったことを後悔してしまいそうになる。


「でも野崎の場合、元気が良すぎるみたいだからね。後々騒ぎ起こされても困るし…譲歩じょうほしてあげようかな」


溝呂木が笑って言った。


「………」


(…見逃してくれるのか?)


確かに、無理やり入部届なんか書かされて入部させられた日には、暴れまくって部を潰してやる位の覚悟はあるが…。

だが、溝呂木は楽しそうに言った。


「この先輩達を相手にして、勝ったら諦めてあげるよ」


不敵な笑みを浮かべながら。



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