第57話

教室に来ていた上級生を撒けば、後は澄まして抜けられると思っていたのだが、何故だか顔を知られているような感じがする。


(上級生達が手にしている書類。あれが怪しいな…)


ここまで来る途中にも何度か上級生達に名前を聞かれ、囲まれそうになってしまった。


(もしかして、写真まで出回ってるとか無いよな…?でも、確実にスポーツテストの情報はれてる。いったいこの学校のプライバシーはどうなってんだ?)


学校がウリの一つにしている『部活動での素晴らしい成績結果』が、こんな強引な勧誘から来るとは思いたくない冬樹だった。


(何にしても、オレは絶対部活には入らないぞ…)


どんな強引な手だって押し退けてみせる。

そう、心に決めた時。


「あれ?野崎じゃないか。そんな所で何やってんだ?」


突然後ろから声が掛かり、内心ドキリ…としながらも振り返ると、そこには昼休みに出会った教師…溝呂木が立っていた。




「はははははっ。それは大変だったなー」


人の苦労も知らず、思いきり笑い飛ばす溝呂木の斜め後ろを冬樹は不満げに歩いていた。

スカウト集団がいることで帰れないと話した冬樹に「この学校には裏門もあるぞ」と教えてくれて、一緒にそこまで案内してくれるというのでお言葉に甘え、現在に至るのである。


「この学校は部活動が盛んだからな。優秀な人材は是非ともその能力を生かして学校の為に貢献こうけんしてくれってことなんだろうな。それだけモテモテなのは、お前が必要とされてるってことなんだぞー」


(そんなことを言われても、あまり嬉しくない…)


校舎の裏庭を抜けて歩いて行く。

裏庭には緑が多く植えられていて、風が吹くと木々が揺れてザアザアと音を立てた。

風にあおられて顔にかかる前髪を、鬱陶うっとうし気にかき上げたその時、前を歩いていた溝呂木が突如とつじょ足を止めた。


「………?」


冬樹もつられて足を止める。

すると、溝呂木が前を向いたまま口を開いた。


「昼休みの時も言ったけど、野崎…お前柔道部に入らないか?」


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