第55話

冬樹は、部活に入るつもりは更々なかった。


どうしたって自分の性質上文化系は論外ろんがいなのだが、運動部に入れば、もれなく男臭い部室が待っているのだ。

この学校の場合は、私立だけあってとても施設が充実していて、それぞれの部室も広く取られ、一人一人のロッカーは完全完備されている。そして、運動部室が入っている棟には、各部共同の広いシャワー室までが併設されていて、部活男子にとってはいたれりくせりなのだが。


(そんな危険な場所に、自分から入って行けるかっての…)


それこそシャワーなど論外、着替えの場でさえ出来れば避けたい所なのだから。

ある意味閉鎖された空間である部室などには、近寄りたくもない…というのが本音だった。


(なんとか、この連中から抜け出せないかな…?)


未だに自分の周りでヒートアップしている上級生をよそに、冬樹は機会をうかがっていた。


すると、一人のクラスメイトがやはりその勧誘に耐えきれず、逃走をはかった。


「逃がさんっ!」

「待てーっ!!」


だが、あっという間に上級生が反応して追い掛ける。

ガタガタッと机にぶつかりながらも、廊下へと向かうが、教室の出口で待ち構えていた他の上級生に結局捕まってしまった。


(あんな所にも足止めがいたんだ…)




冬樹は、どうしたものか…と考える。


…と、その時。

先程の生徒が捕まった出口とは逆の扉近くに、雅耶と長瀬が立っているのが見えた。


(今だ!!)


冬樹はこのチャンスを逃すまいと、取り囲んでいる上級生の隙間をくぐって逃走を図った。


「あっ!!また逃走者だぞっ!!」

「逃がすかっ!!」

「野崎くん!!」


上級生が口々に大声を上げて追い掛けてくる。

猛ダッシュで出口へと向かう冬樹に、雅耶も長瀬も驚きの表情でこちらを振り返っていた。

冬樹は、


「悪いっ!!」


手短にそう言って、雅耶の背中に回り込むと今度は雅耶を盾にして廊下へ出た。

その際に、長瀬の向きもくるりと変えて、追っ手からの盾にしたのは言うまでもない。

長身の雅耶のかげに隠れて廊下に飛び出した冬樹に、待機していた足止めの上級生が飛び掛かるが、冬樹はそれを馬跳びのように飛び越して、走り去って行った。


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