第54話

勝手に盛り上がっている上級生達の壁の隙間から周囲を見ると、涼しい顔をして友人と話している雅耶が見えた。


(何で雅耶の周りには上級生達がいないんだっ?アイツの方が、確かオレよりタイム早かった筈だろ…?)


良く見れば、やはりスポーツ万能な他のクラスメイト達でも、勧誘を受けている者とそうでない者がいることに気が付いた。


(この違いは何なんだろう…?)


周囲を気にしている冬樹をそっちのけで、上級生達は人の周りで勝手に熱くなって、もう一触即発状態だ。

だが、それこそ知ったことではない冬樹は、周囲の様子を伺っていた。


「聞いてはいたけど、スゴイ熱気だにゃー。俺…つくづく希望出しといて良かったよん♪」


よく雅耶と一緒にいる長瀬という男が言った。


「お前、結局何部にしたんだ?最後まで迷ってたじゃん?」

「へへ♪新聞部」


(そんな部もあるんだな…。シブいな…)


そう思っていた所に、


「新聞部かー。…シブいな…」


雅耶も同じことを呟いた。


「だって俺、ジャーナリスト志望だもん♪」

「そうだったな…」

「雅耶は空手一筋!だもんなっ」

「うん、高校で空手部ある所少ないし…この学校選んだのもそれが大きいんだよな」


(雅耶…まだ空手続けてたんだな…)


冬樹は遠い目になった。


すると今度は、横を過ぎていくクラスメイト達の話し声が聞こえてきた。


「…これって明日も続くんだろ?」

「うん、今日明日の二日間だけらしいけどね。今日は放課後からだけど、明日は丸一日勧誘期間だから朝から激戦ってカンジ?」

「うわー…俺、決めといて良かったー」

「うん、この二日間で入りたくなかった部活入っちゃったり、トラウマになっちゃう奴がいるとか聞いたぜ?」


そんな物騒なことを話しながら、笑って教室を出て行くクラスメイト達を横目で見送って。


(冗談じゃない!!)


…と、冬樹は思った。


つまりこれは、部活の希望を出していない者に入部を促す為の勧誘イベントという訳だ。


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