第53話

冬樹は、教室から少し離れた廊下の窓から外を眺めていた。

雅耶の追求から逃げるように教室を出て来てしまったけれど、もうすぐ6時限目が始まる。


(戻らないと…な…)



『あいつらと何処に行っていたんだ?あの後、心配になって追いかけたんだけど…』


いい加減、見限って欲しいのに。

お人好しの幼馴染みは、なかなか自分と過去とを切り捨ててはくれない。


(そんな心配いらないよ、雅耶…)


そういう優しさは、昔からの雅耶の良い所だ。

でも…今のオレには、身に余る。


その時、突然強い風が唸りを上げて窓から吹き抜けてゆき、冬樹は咄嗟に目をつぶった。

廊下に貼り出されているポスターなどの掲示物が、カサカサと大きく音を立てた。

冬樹はすっかり乱れてしまった髪を整え、ひとつ溜め息をつくと、目の前の窓を閉めて教室へと戻って行った。




放課後になると、途端に一年生棟の周辺は賑やかになった。

今日から一年生の部活動への参加が本格的に始まるのだ。


ここ成蘭高校は、運動系、文化系ともに部活動がとても盛んな学校である。

自主的に入部する者は勿論だが、部員獲得の為の必死な勧誘も激化するのが、この時期の特徴でもあった。

それは、この学校の風物詩的なモノになりつつある、ある種のイベント。


「キミが野崎くん!だねっ?」

「あっ!お前っ抜け駆けすんなっ!!」

「野崎くん、陸上部来ないっ?」

「馬鹿!サッカー部だよっ!!」

「………」


冬樹は無表情で固まっていた。


HRが終わると同時に、見る間に上級生が一年生の教室内を満たしていた。

それぞれマークされていた一年生達が、勧誘にやって来た上級生達に囲まれている。

冬樹も気付いたら、座っている机の周りを数人の上級生達に囲まれていた。


「野崎くん、100メートルのタイム見たよ!!是非陸上部においでよっ!!」

「その足を生かしてサッカー部に!!」

「いや、その身の軽さと跳躍力を生かせるのはバスケ部だと思うよっ!!」


ぎゅうぎゅうと押し合って好き勝手言っている上級生に冬樹はゲンナリした。


(だいたい、何でスポーツテストの個人データが出回ってるんだ…。先生達もグルなのか??)


そう、これは学校側も公認しているイベントなのだ。

能力のひいでている生徒を部活に引き込み、学校を更に盛り上げて行く為の。


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