第52話
5時限目終了後。
「冬樹っ」
授業が終わり次第、雅耶が慌てて自分の席の前にやって来た。
「お前…大丈夫だったかっ?」
妙に心配顔の雅耶が何を気にしているのかが解らなくて、目で続きを即す。
(さっきの溝呂木って先生が授業に遅れた理由に使っていた『教室が分からなくて迷子になったこと』を言っているのなら、雅耶は空気の読めない最低な奴だよな…)
そんなことを頭の端で考えながら。
だが、雅耶の口からは意外な言葉が出てきた。
「お前…上級生に何か言い寄られてたろっ?」
そこを見られていたとは思わなくて、冬樹は内心ドキリとした。
「あいつらと何処に行っていたんだ?あの後、心配になって追いかけたんだけど、お前見失っちゃって…」
そこまで聞いて冬樹は目を見張った。
「…別に、何もない」
そう小さく言うと、ガタン…と音をたてて席を立つ。
「何もないって―…おいっ冬樹っ」
食い下がる雅耶の声を無視して、冬樹は教室を出て行ってしまった。
(冬樹…)
立ち尽くしている雅耶の後ろで、二人の様子を見ていた長瀬が口を開いた。
「やっぱ、知り合いの上級生がいて話し込んでただけとかじゃないの?」
「そんな雰囲気には見えなかったけど…」
ゆっくりと自分の席に戻りながら雅耶は言った。
「でもさー、特に抵抗してるカンジ無かったじゃん?」
「うーん…」
確かにあの時、冬樹は言われるままに彼らについて行ったように見えたのは確かだ。
席に座り頬杖をついて考え込んでいる雅耶の横で、机に寄り掛かりながら長瀬は思いついたように手を打った。
「それか、あいつらに何か弱みを握られているとかっ」
「脅されてるってことか?」
「うん。それか、逆に―…」
「…逆に?」
「大した相手じゃないと見越してついて行って全員綺麗にのしてきちゃったとかね♪」
何故だか嬉しそうにそんな物騒なことを言う長瀬に、雅耶は溜息を付くと、
「まぁ、ここで色々詮索してても埒があかないよな…」
遠い目をしながら呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます