第48話

「あれ?もう行くのか?」


早々に食べ終わり、席を立とうとする冬樹に雅耶が声を掛けた。

冬樹はチラリと雅耶の方を見やると、


「…他の奴が座るだろ?」


そう言って食器の乗ったトレーを持つと席を離れた。

その言葉に雅耶が周囲を振り返ると。


「ん?もしかして、ソコ空いてる?」


後方に長瀬が立っていた。



「もしかして、冬樹チャン譲ってくれた?」


冬樹の座っていた席に長瀬がトレーを置きながら言った。


「ん…そうかも」


ご飯を口に運びながら雅耶が答える。


「優しいのね、冬樹チャン♪…で?少しは話出来るようになったのか?」


気にしてくれているのか、長瀬はウインクしながら箸を手に取り言った。


「うーん…。まぁまぁ…?かな…」


実際、たいした話はしていないのだけど。


「でも、無視されてる訳じゃないみたいじゃん。もともと口数少ないだけなんじゃないの?」

「うーん…そうなのかなー」


そんな事を話しながら、食事をしていたその時だった。


「あれっ?」

「…ん?どうした?」


長瀬が突然、何かに気付いたように声を上げたので、その視線の先を追って雅耶も後方を振り返った。


「あれって…冬樹チャンじゃん?」


そう言って指差した先には…。

数人に何やら囲まれてる冬樹が見えた。


「…あれ、上級生か?」




食器を返却して、食堂を後にしようと冬樹が出口へ向かっていたその時だった。

突然、行く手を遮るように横から人が出てきて足止めを食らう。


(何だ…?)


不審に思って、その人物を見上げると。


「よぉ…」


高校の制服があまり似合わない、ゴツイ男が不敵な笑みを浮かべていた。

その顔には見覚えがあった。


「………」


冬樹が驚きで一瞬固まっている間に、両サイドを固められる。

その二人の顔にも見覚えがあった。


(こないだの、カツアゲ三人組…)


「こんなトコで再会するなんて、奇遇じゃねーか」


嬉しそうにニヤリと笑うゴツイ男と共に、両端の二人も小さく笑う。

その隙に、両腕は逃げられないようにしっかりと掴まれてしまった。


「ちょっと付き合って貰うぜ。正義感の強いおチビちゃん」


不穏な空気を感じながらも、周囲に迷惑は掛けられないと、冬樹は大人しくついて行くことにした。




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