第47話
そのまた、数日後。
ある日の昼休み。
冬樹は一人、学食に来ていた。
流石私立とも言うべきか、この学校の学食はとても充実していて、メニューが豊富なのは勿論のこと、安く美味しく栄養バランスの良いものが食べれるとあって、学校のウリの一つにもなっていた。
そして、何より男子校ならではのボリュームの多さにも定評があった。
流石にそんなボリュームを求めてはいないが、一人暮らしの冬樹にとっては、かなり有難く魅力的な部分でもある。
生徒数が多いこともあり、食堂内はかなり広く造られているのだが、この時間は多くの生徒達で賑わい、それなりの混雑を見せていた。
冬樹はカレーライスをトレーに乗せると、学食専用ICカードで精算を済ませ、空いている席に着いた。
混んではいても、一人分の席を探すのに特別困ることはない。
心の中で「いただきます」を言って、軽く手を合わせると冬樹は食事を始める。
すると、
「ここ、空いてる?座ってもいいかな?」
突然、頭上から声を掛けられた。
「?…どうぞ…」
…と、顔を上げた瞬間「しまった!」と、思ったが既に遅かった。
椅子を引いて、目の前の席に座ろうとしている人物。
それは…。
(…雅耶…)
「お!カレー美味そうだなっ。今度俺も食べてみようかなー」
にこにこと人懐っこい笑みを浮かべてくる。
「………」
冬樹は何も言わずに、思わず止まってしまっていた手と口を動かし始めた。
そんな冬樹の様子を見て雅耶は微笑むと、自分も「いただきます」と手を合わせて食べ始めた。
(何だか気まずい…)
目の前の雅耶は、何を言うでもなくただ食事をしているだけなのだが、時折こちらに投げ掛ける視線に逆に居心地の悪さを感じて、冬樹は自然と手と口の動きが早くなっていく。
そんな冬樹の様子を見て雅耶は、
「お前…食べるの早いなー」
とか呑気に感心したりしている。
(お前のせいだ!お前の…っ)
最近の雅耶は、わざと自分の目の前にやってくる。
話し掛ける時も、今のようにただ食事をする時も…だ。
(確かに、横や後ろから声を掛けられても、聞こえないふりしてたのは事実だけど…。いい加減…避けてるのくらい分かれよな…)
そう、心の中で愚痴りつつも。
正面に来られると、露骨に邪険には出来ない冬樹だった。
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