第44話

入学式から約一週間が経過したある日。


雅耶は、遠く集団の中にいる冬樹を何とはなしにぼーっと眺めていた。

晴れ渡る空に、広いグラウンド。

現在、体育の授業真っ只中。

今日は、100メートルのタイムを計るらしい。

人数が多い為、クラス内で前半組と後半組に分かれ、その中でペアを作りお互いにタイムを録り合うのである。

現在冬樹を含む前半組が走る準備をしているところだった。


「はぁ…」


雅耶は、冬樹を視界に入れたまま肩を落とした。

入学式以降、雅耶は何度か冬樹に声を掛けてはみたものの、大した反応は返って来ず…。

それ以前に、声を掛けようにも様々な邪魔が入ったりで、ろくにコミュニケーションを取れずにいた。


(でも、やっぱり避けられてる…気がする…)


後ろや遠くから声を掛けても、聞こえないふりをしているかのように、そのまま行ってしまう。

正面から近付いて声掛ければ、視線を合わせてはくれるのだが。


(あの真顔は無いよなーっ…)


どこか冷たい瞳。


(俺…あいつと会話成立したの、挨拶位かも…)


そう思い「はぁ…」…と、もう一度溜息をついた。


「まったく、悩ましげに溜息なんか付いちゃって♪」


隣に座っていた長瀬がいつもの調子で茶化してきた。


「これだけ雅耶が熱い視線送ってんのに、幼なじみちゃんたらツレナイのねー」

「だから!そんなんじゃないって言ってるだろー。俺は、ただ…」

「あっほら!走るみたいだよん」


俺の言葉を遮って、長瀬が指をさした。

その瞬間、パアンッ…という音と共に数人が駆け出す。


「すっげ!冬樹チャンやるじゃんっ」


はらー…とか言いながら、長瀬が手のひらでひさしを作って眺めている。


(速い…)


七~八人の中でダントツ一位で冬樹はゴールした。


「何ていうか、力強い走りというよりは身が軽い走りだねェ」

「ああ…」


長瀬の言うとおりだと思った。

その時。


「もしかして、久賀くん達って野崎くんの知り合いなの?」


俺達の話が聞こえたのか、近くに座っていたクラスメイトが声を掛けてきた。


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