第43話

「でも、きっと冬樹くんは色々苦労したんじゃないかな…。家族を失って…環境も変わって…」

「うん…」

「でも、雅耶だって小学生の頃とは流石に違うでしょ?みんな成長していくんだもの。ただ根本的なものはそう変わらない…。きっと冬樹くんもそうだと思うよ」


清香は、諭すように優しく言った。


「また、仲良しになれるといいわね」


そんな清香の言葉に。

雅耶は、少し気持ちが楽になったような気がした。


「うん、そうだね。ありがと…。清香姉…」

「『清香先生』…でしょ?」


すかさず訂正が入って、雅耶は清香と顔を見合わせると。

お互い声を上げて笑った。




明日、また冬樹に話し掛けよう。


まだ、避けられてると決まった訳じゃないし…。

冬樹がいる高校生活は、きっと楽しいものになるに違いない。


そう信じて疑わない、雅耶であった。






一方の冬樹は。


学校からの帰り道。比較的空いた電車のドア横に立ち、揺られながら遠くの空を眺めていた。


「………」


HRの挨拶の後、逃げるように教室を後にした。


本当は、雅耶が何か言いたげなのは分かっていた。

でも、話を出来る余裕が今の自分には無かった…。


雅耶は『冬樹』と『夏樹』にとって、大切な幼馴染であり、大切な友人だ。

伯父の家に引き取られてからも、会いたいと…今頃どうしているだろうと思っていたことはあった。

だから、本当は雅耶に会えて嬉しかった気持ちもある。


(だけど…)


あまりにも近すぎて。

自分達兄妹にとって『雅耶』という存在は、あまりにも近すぎていたから…。

本当は冬樹がいなくて、夏樹である自分が『冬樹』を演じているということの罪悪感が…どうしても拭えないのだ。


兄の冬樹に対しては勿論のこと…、雅耶に対しても。


これが、本当の冬樹と雅耶であったなら。

生きていたのが、兄の冬樹であったなら…。


きっと、八年振りだろうが何年振りだろうが、二人はすぐに昔の関係を取り戻せる筈だ。

仲の良かった『親友の二人』に。


ふゆちゃん、本当にごめんね。

雅耶も、ごめん…。


(オレには…そんな資格は無い…)


これは、罰だ。

冬樹を身代わりに、ひとり助かってしまった夏樹の罰。


(雅耶…。もう、オレなんかに話し掛けるな…。関わらないでくれ…)


掴んだ手すりに力を籠めると、冬樹はドアに寄り掛かり俯いた。



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